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虚血性腸炎,腸間膜動脈塞栓症
ischemic enteritis,mesenteric artery embolism
平 泰彦
(聖マリアンナ医科大学教授・救急医学)

A.疾患・病態の概要

 本項では消化管への血流障害が原因で消化管壊死や出血をきたし,救急外来で重要な疾患である,虚血性腸炎,上腸間膜動脈閉塞症〔SMA(superior mesenteric artery)閉塞症〕,非閉塞性腸管虚血症〔NOMI(non-occlusive mesenteric ischemia)〕,そして上腸間膜静脈閉塞症(superior mesenteric vein:SMV閉塞症)について概説する.

●虚血性腸炎とは,中枢の腸管動脈に閉塞がないにもかかわらず,虚血により惹起された腸管の炎症である(Marston,1966).次の3型に分類される.

①一過性型:虚血性腸炎の大部分を占め,腹痛や下血で発症し1~2週間で治癒する.

②狭窄型:発症後,1か月ほどを経た時期に腸管内腔の狭窄をきたす.

③壊死型:初期から腸管壊死と腹膜炎をきたすタイプでNOMIとの関連が議論されている.このタイプは緊急手術を必要とし,腸間膜動脈血栓・塞栓症とともに救急の現場で緊急性,重症度が高い.

●腸間膜血管の解剖と生理

①SMAは腹腔動脈の分岐より末梢側,約1cmの大動脈から分岐する.左側から空・回腸動脈が,右側から中結腸動脈,回結腸動脈,右結腸動脈が分枝する.SMA本幹の末梢は,自ら分枝した回結腸動脈と吻合して終わる.

②腸管は75%の腸間膜血流の減少に対して,12時間までは酸素摂取率(O2 extraction)の上昇や側副血行によって耐えられる.しかし,血管の狭窄や閉塞による血流減少に加えて血管攣縮が病態の悪化を加速する.

●急性腸間膜虚血(acute mesenteric ischemia:AMI)は,SMAに起因する病態(95%)とSMVに起因する病態(5%)に二分される.SMA閉塞症は,SMA血栓症(15~25%),SMA塞栓症(50%)と血管閉塞を伴わないNOMI(20~30%)

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