診療支援
治療

広範囲挫滅損傷(クラッシュ症候群)
extensive crush injury/crush syndrome
中山伸一
(兵庫県災害医療センター・副センター長)

A.病態

●鈍的外力によって皮下組織,筋肉ひいては神経・血管も含めて圧挫された損傷を挫滅損傷という.

●鈍的外力の力の大きさとそれが作用した時間,そして力の及んだ範囲の大きさにより,重症度に影響を与える.

●広範囲の定義は明確ではないが,上肢一本に相当する範囲に損傷が及べば明らかに広範囲である(重症度参照).

●筋肉に一定時間以上強い圧迫力がかかると,その筋肉細胞が損傷(crush injuryという)を受けるが,その時間が長ければ,圧迫部位への血流障害から相対的阻血に陥り,ますます筋細胞の損傷が増悪する.

●このような外傷は救出救助に時間を要する場合が多いが,救出救助によりその圧迫が解除されると,圧迫を受けていた部分への血流再開に基づく相対的な循環血液量減少性ショックを生じるとともに,受傷部の「再灌流障害」が惹起され,全身での代謝性アシドーシスが進行する.

●それに伴って受傷部位では炎症が惹起され,特に筋細胞から透過性亢進に伴って細胞内に高濃度で含まれるカリウム(生体内の総カリウムの約80%は筋肉細胞内にある)やミオクロビンなどが漏出し,血流に乗って全身臓器へ悪影響を及ぼしていく.

●つまり,局所の損傷が限局的で,全身にほとんど影響を与えない場合はcrush injuryのみにとどまるが,損傷が広範囲かつ高度であれば,それにより全身臓器に影響を与え,腎不全,呼吸不全(ARDSなど)をはじめとする多臓器不全やDICを併発するものを圧挫症候群あるいはクラッシュ症候群(crush syndrome)と呼び,集中治療を要することとなる.

●これまで地震や戦争でクラッシュ症候群の発生が数多く報告されているが,日常の事案でも,例えば,農作業中の機械の下敷きや労務中のいわゆる挟まれ事故をはじめ,脳血管障害や睡眠薬多量服薬などで長時間同じ体位で放置されていたような場合に自分の体重で発症する例も散見される

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