今日の診療
内科診断学

悪心・嘔吐
河上 洋
浅香 正博


悪心・嘔吐とは

■定義

 悪心(nausea)とは,嘔吐したい,嘔吐しそうだという差し迫った感覚,心理的体験であり,嘔気と同義に用いられる.

 嘔吐(vomiting)とは,胃内容物が食道,口腔を介して排出されることであり,不快感,苦痛を伴う.

■患者の訴え方

 悪心では,「むかつく」「吐き気がする」「気持ちが悪い」「げっとなる」など,訴え方は多彩である.患者にとって適切な表現が難しいことが多い.むかつきは嘔吐を伴わない嘔吐様運動であり,厳密には悪心と区別されるが,訴え方からの区別は困難なことが多い.

 嘔吐では,「吐いた」「食べた物が出た」「酸っぱいもの(胃液)が上がってきた」「苦いもの(胆汁)が出た」「もどした」などと表現される.

■患者が訴える頻度

 悪心・嘔吐は,実地診療においてしばしば認められる症状の1つである.特に消化器疾患においては高頻度にみられる.たとえば,胃潰瘍では約25%,十二指腸潰瘍では約28%と報告されているが,幽門部狭窄があると,さらに高率となる.

 ただし,消化器疾患のみならず,広範な領域の病態においてみられるものであることを念頭におく必要がある.

 本症状は,緊急処置が必要な急性腹症や脳圧亢進症の主症状である場合には,迅速な対応が必要である.

症候から原因疾患へ

■病態の考え方

 嘔吐に関係する中枢は,①延髄網様体中の迷走神経背側核付近にある嘔吐中枢,②第4脳室底にある化学受容体誘発帯(chemoreceptor trigger zone; CTZ)である.

 嘔吐中枢の近傍には,呼吸中枢,血管運動中枢,消化管運動中枢,唾液分泌中枢,前庭神経核などがある.このため,悪心・嘔吐には,これらの中枢の刺激症状である発汗,唾液分泌,顔面蒼白,脈拍微弱,徐脈,頻脈,血圧の動揺,めまいなど種々の症状を伴うことが多い.

 嘔吐中枢の刺激経路は,①消化管や身体各部から求心性迷走神経や交感神

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