今日の診療
内科診断学

胸水
西條 康夫


胸水とは

■定義

 壁側胸膜および臓側胸膜の間,いわゆる胸膜腔には,肺実質の呼吸運動に伴う胸壁との摩擦を低くするため,少量の胸膜液(20mL以内)が存在する.正常胸膜液の組成を表3-190に示す.胸膜液が病的に貯留したものを胸水(pleural effusion)と定義する.

■患者の訴え方

 胸水に起因する直接的な症状は,胸膜の炎症,肺のメカニクスの障害,ガス交換との関連によるとされる.「息が切れる」「呼吸が苦しい」と訴えるのは一般的な呼吸困難の症状であり,「呼吸をするときに,息が十分に吸えない」と訴えるのは,胸膜にまで病変が及んでいることを強く示唆している.「熱がある」「だるい」などと訴えるのは炎症の存在を示唆している.

 さらには,胸水の原因となる疾患によってさまざまな症状が引き起こされる.心疾患や腎疾患の場合には,「ドキドキする」「足がむくむ」と訴えることがある.肺炎などの感染症による場合,「咳,痰が出る」といった呼吸器症状を,悪性疾患(特に肺癌)の場合にはこれら一般的な呼吸器症状のほかに,「血痰が出る」「胸が痛む」「食べられない」などと訴えることが多い.また膠原病の場合には,「関節が痛い,腫れる」と,消化器疾患の場合には「お腹が痛い」と訴えることがある.

■患者が胸水を訴える頻度

 外来患者における胸水の頻度を示す明確なデータは存在しない.しかし,発熱や胸痛といった症状は外来の患者がよく訴える症状の1つである.

症候から原因疾患へ

■病態の考え方

(図3-187)

 通常,胸膜液は壁側胸膜で濾過産生され,毛細血管の圧較差により臓側胸膜で吸収され,常に産生・吸収の均衡が保たれている.しかし,なんらかの原因でこの均衡が崩れると胸腔内に胸水の貯留をきたし,臨床症状の原因となる.そして胸部X線写真で胸水貯留像として認められる.

 原因となる因子としては,①静脈圧の上昇,②膠質浸透圧の低下,③

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