今日の診療
内科診断学

運動失調
長井 篤
小林 祥泰


運動失調とは

■定義

 多くの筋が協調して収縮・弛緩することで,運動が滑らかに行われる.これを協調運動という.筋の麻痺などがないにもかかわらず,協調運動が障害されるために運動がうまく行えないことを協調運動障害(incoordination)といい,運動失調(ataxia)は一般に,これと同義として扱われている.

■患者の訴え方

 失調の出現する部位によって訴えが異なる.体幹の運動がうまく行えないとき,「ふらつく」「めまいがする」という訴えになり,下肢の失調は「足が出にくい」「思う方向に足が出ない」などの歩行障害の表現となることが多い.上肢の失調は「物を取るとき手がふるえる」など,日常生活上の不便を訴える.口では「ろれつが回らない」という訴えが多い.

■患者が運動失調を訴える頻度

 前庭迷路性はめまいを伴い,頻度は高い.脳血管障害の約10%に運動失調がみられる.その他の疾患によるものは稀である.

症候から原因疾患へ

■病態の考え方

 「運動失調がある」と患者が訴えることはないので,患者の訴えが運動失調であると確認することがまず重要である.なんらかの運動失調症状を患者が訴える場合,循環不全,炎症で生じることが多いが,低栄養や薬物でも生じることを知っておく必要がある.

 病態を図3-322に,主な原因疾患を表3-337に,また運動失調の部位別分類を表3-338に示す.

■病態・原因疾患の割合

(図3-323)

 Ménière(メニエール)病,前庭神経炎,脳血管障害によるものが圧倒的に多い.緩徐進行性では脊髄小脳変性症が多い.

診断の進め方

■診断の進め方のポイント

●頻度からは前庭迷路性が多いが,心因性に運動失調様症状を訴えることもあるので,身体診察を的確に行い鑑別する.

●①脊髄後索性,②小脳性,③前庭迷路性のそれぞれの訴え,症状の特徴を把握しておくことが重要である.

●脳卒中の症状である場合,嘔吐や頭

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