現病歴:朝の通勤時に左胸痛と呼吸困難を自覚した.そのまま出勤し仕事をしたが,症状が改善しないため,その日の夕方に受診した.
既往歴:特記すべきことはない.外傷の自覚もない.
生活歴:22歳時より商社勤務,喫煙歴なし,飲酒歴はビール350mLを週3回程度.
家族歴:特記すべきことはない.
身体所見:意識は清明.身長177cm,体重65kg,体温36.5℃,脈拍86回/分(整),血圧132/80mmHg,呼吸数20回/分,SpO2 96%(室内気).頸部リンパ節を触知しない.心音に異常を認めない.呼吸音は左右差があり,左側でやや減弱している.腹部は平坦・軟で,肝・脾を触知しない.
診断の進め方
特に見逃してはいけない疾患
・心筋梗塞
・肺塞栓
・血気胸
・肺癌
頻度の高い疾患
・気胸
・肺炎
・胸膜炎
・肋間神経痛
・帯状疱疹
■この時点で何を考えるか?
医療面接と身体診察を総合して考える点
呼吸困難を主訴に受診した患者に対しては,〈p〉まず救命処置を要する状態であるかを判断する必要がある.その緊急性を第一に考える必要がある.
今回の患者の場合,呼吸困難は突然に発症しているが,〈p〉気道閉塞を示唆する聴診所見や呼吸状態,緊張性気胸を示唆するような血圧低下などの全身状態の変化を認めていないため〔症候・病態編「呼吸困難」参照→〕,緊急での救命処置が必要な状態ではないと判断し,医療面接,身体診察,および検査を進めていく.
胸痛は,さまざまな臓器障害が原因になって起こる頻度の高い症状である.発症様式(発症直後の受診なのか,発症数時間後なのか,慢性的な胸痛での受診なのか)と時間経過(胸痛が発症後も持続しているのか,反復する胸痛なのか)を正確に聴取し,胸痛に随伴する症状や所見を詳しく取り上げることにより原因疾患を絞り込むことが可能である.このため,医療面接を十分に行うことが重要である.
〈p〉この患者の左胸痛は突然に発症