診療支援
診断

部位別の身体診察:胸部
(音)収載項目
奈良 信雄(〜胸郭の診察)
(日本医学教育評価機構 常勤理事/順天堂大学医学部 客員教授/東京医科歯科大学 名誉教授)
笹野 哲郎(心臓の診察)
(東京医科歯科大学大学院循環制御内科学 教授)
磯部 光章(心臓の診察)
(榊原記念病院 院長/東京医科歯科大学 名誉教授)
塩田 智美(肺の診察)
(順天堂大学大学院呼吸器内科学 准教授)
髙橋 和久(肺の診察)
(順天堂大学大学院呼吸器内科学 教授)
海瀬 博史(乳房の診察〜腋窩の診察)
(東京医科大学茨城医療センター乳腺科 講師)
石川 孝(乳房の診察〜腋窩の診察)
(東京医科大学乳腺科学分野 主任教授)

 胸部の診察では,胸郭,心臓血管系,肺,気管,乳房,腋窩などを,視診,触診,打診,聴診で調べる.通常はまず患者を座位の状態にして前面を診察し,次いで背面を診察する.仰臥位で診察する場合には,背面は起座位の状態で行うが,側臥位で診察せざるをえないこともある.胸部診察のポイントを表1に示す.

 胸部の診察で得た所見を記載する場合,指標が必要となる.よく使用される縦線(垂直線)および横線(水平線)を図1,表2に示す.たとえば,「右側第5肋骨上,鎖骨中線より1cm外方」「左側第3肋間,前腋窩線より1cm内方」などという表現を用いて胸壁上の位置を記す.かつては長さや距離を表現するのに指の幅を使って“横指”で計測することが多かったが,“cm”などで具体的に表現するほうがよい.

 また,胸壁上の位置を表す言葉として,慣用的に鎖骨上窩,鎖骨下窩,肩甲部,肩甲間部,肩甲下部などの表現もよく使われる(図1)

 なお,体表から見た肺および心臓の位置と形態を十分に理解しておくことも,胸部を診察するにあたって重要である(図2),(図3)

胸郭の診察

視診

 胸郭(thorax)は,患者にまっすぐに座ってもらい,前方,側方,そして背部から観察する.視診で観察する要点は,皮膚,皮下脂肪,筋肉の発達,胸郭の形や大きさ,呼吸運動,心尖拍動,乳房の変形などである.

胸郭の変形(図4)

 胸郭の形と大きさは個人差がある.通常は左右対称で,前後径が横径に比べて小さく,横断面では楕円形である.

 胸郭の変形をまず観察する.これらの異常は必ずしも病的でないこともあるが,高度になると呼吸機能に障害を与えることがある.

①樽状胸(barrel chest)

 胸部の前後径が横径に比べて長くなった状態で,ビール樽のように見える.肺気腫患者にみられる.

②扁平胸(flat chest)

 胸郭が狭長で,前後に扁平な状態である.病的で

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