診療支援
診断

呼吸不全
respiratory failure
中村 博幸
(東京医科大学茨城医療センター呼吸器内科 教授)
武田 幸久
(東京医科大学茨城医療センター呼吸器内科)
渡邊 裕介
(東京医科大学病院感染制御部・感染症科)

呼吸不全とは

定義

 低酸素血症のために生体が正常な働きを営むことができない病態である.わが国では室内気吸入時のPaO2が60Torr(mmHg)以下,またはそれに相当する呼吸障害を有するものと定義されている.なおPaCO2が45Torr以下のものはⅠ型,45Torrを超えるものはⅡ型に分類される.

 時間経過の差異により急性と慢性に分類される.

 急性とは短期間の経過(通常数時間から1か月以内)で呼吸不全に陥り,生命の危機に晒される危険が高いものである.慢性とは呼吸不全の状態が慢性的に持続するものである.安静時には症状は軽微ないしみられないが,負荷に対する呼吸機能の予備能が低下した状態である.このため慢性呼吸不全は負荷により容易に急性呼吸不全に陥ることも多く,急性増悪と呼ばれる.なお,急性と慢性の病態は単に時間的な経過の差異のみではなく,本質的に異なった病態と理解すべきである.

患者の訴え方

 原疾患によるものと低酸素血症あるいは高炭酸ガス血症に起因するアシドーシスによる症状がみられる.

 急性呼吸不全では「息が苦しい」「息が苦しく,しゃべれない」などの呼吸困難を訴える.なお,呼吸不全の程度が強いとそわそわして落ち着きがなく,不穏,不安,興奮,錯乱,見当識障害,痙攣発作,昏睡などの精神神経症状がみられることがある.努力呼吸,発汗,苦悶様の表情などもみられる.原因となる疾患によっては胸痛,胸部絞扼感がみられたり,頭痛,腹痛,精神症状,動悸およびショックなど一見すると呼吸不全とは無関係と考えてしまう症状が前面に出たりすることがあり,診断に際しては注意を要する.

 これに対して,慢性呼吸不全では負荷によって呼吸困難を訴えることが多い.「動くと息苦しい」「坂道,階段または入浴時に息が苦しい」などの訴えが多い.高度の高炭酸ガス血症では羽ばたき振戦がみられる.

呼吸不全の頻度

 筆者の施設の一般外来の初

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