現病歴:1年ほど前から,歩行時に息切れを感じるようになった.様子をみていたところ,息切れが徐々に増悪し,全身倦怠感も出現するため受診した.
既往歴:6年前に胃癌のために胃全摘手術を受けている.
生活歴:手術後は食事回数を増やして少量ずつ摂取している.喫煙歴は30本/日,飲酒歴なし.
家族歴:父親が50歳で脳出血で死亡.
身体所見:身長169cm,体重45kg,体温36.0℃,脈拍92回/分(整),血圧112/56mmHg.眼瞼結膜貧血様,眼球結膜黄疸はなし.頸部リンパ節を触知しない.収縮期心雑音を聴取,呼吸音は清明で副雑音はない.腹部は平坦・軟で,手術痕を認める.肝・脾は触知しない.両側下腿に軽度浮腫あり.神経学的異常所見なし.
【問題点の描出】
6年前に胃全摘手術を受けている37歳男性.息切れと全身倦怠感を訴えている.
診断の進め方
特に見逃してはいけない疾患
・心不全
・呼吸不全
・腎不全
・貧血
・癌再発
頻度の高い疾患
・心不全
・呼吸不全
・貧血
この時点で何を考えるか?
医療面接と身体診察を総合して考える点
胃癌による胃全摘出術を受けた患者で,息切れと全身倦怠感が主訴になっている.
喫煙歴もあり,慢性呼吸器疾患を否定する必要があるが,胸部診察で異常所見は認めないので,否定的である.年齢にしては脈拍数がやや多く,収縮期心雑音,下腿浮腫の存在から慢性心不全は否定できない.
今回の患者は胃全摘手術を6年前に受けており,体重減少があることから,食事内容に問題があって貧血を生じている可能性が高い.収縮期心雑音と浮腫は慢性の貧血による心不全と考えられる.
貧血は血液検査で簡単に診断できる.貧血の原因は胃全摘に伴うビタミンB12欠乏と鉄欠乏が考えられるが,血液生化学検査で鑑別できる.心不全の有無は心電図検査,心臓エコー検査,血漿ナトリウム利尿ペプチド(BNP)測定で確認できる.癌の再発や骨髄転移の可能性も否定でき