診療支援
治療

6 急性動脈閉塞症
acute arterial occlusive disease
古森 公浩
(名古屋大学教授・血管外科学)

▼定義

 急性動脈閉塞症とは,突然四肢の血流が減少することで,その末梢側の虚血症状を呈する状態である.迅速,的確な診断と適切な治療を行わなければ肢壊死となり肢切断が必要になることがある.また筋腎代謝症候群(myonephropathic metabolic syndrome:MNMS)を併発し,腎不全,呼吸不全,循環不全などの多臓器障害により死に至る可能性のある重篤な疾患である.

▼病態

 閉塞機序から塞栓症と血栓症に分類される.塞栓症の塞栓源は90%前後が心原性で,最も多い原因疾患は心房細動である.血栓症は閉塞性動脈硬化症やBuerger(バージャー)病など慢性動脈閉塞症の動脈壁が血栓性閉塞をきたす.動脈が急に閉塞すると筋肉,組織は急性虚血に陥り,虚血部位から無酸素代謝産物として乳酸,ピルビン酸が産生され,次第に細胞破壊によってカリウム,ミオグロビン,CK,AST,ALT,LDHが血流中に流出する.また腹部大動脈下端の分岐部にかかるsaddle embolism(鞍状または騎乗塞栓症)のように両下肢に及ぶ広範囲の虚血や長時間虚血では,単なる局所障害の問題だけではなく,ミオグロビンによる腎尿細管の障害,さらに代謝性アシドーシスなどで全身的代謝障害となりMNMSへと進行しやすい.臨床的には虚血肢の神経は4~6時間,筋肉は6~8時間,皮膚は8~12時間で不可逆的変化を生じるとされており,塞栓症や外傷による急性虚血では発症後6~8時間が救肢の目安である.

▼診断

病歴聴取

 塞栓症は突然に発症するのに比べ,血栓症は側副血行路が存在する場合が多く,やや緩慢に発症する.

身体所見

 いわゆる5Pといわれる動脈拍動消失(pulselessness),疼痛(pain),皮膚蒼白(pallor),知覚鈍麻(paresthesia),運動麻痺(paralysis)が典型的症状である.皮膚は蒼白となり地図

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