疾患を疑うポイント
●胃癌・消化性潰瘍の既往・家族歴.
学びのポイント
●Helicobacter pylori(ピロリ菌)は主に幼少期に感染し,慢性活動性胃炎を惹起する.
●ピロリ菌の除菌は消化性潰瘍の発生・再発の抑制,胃MALTリンパ腫の治療,さらには胃癌抑制に有効である.
▼病態
ピロリ菌は,通常,胃前庭部に最初に感染する.酸分泌が多い場合は胃炎が胃体部に進展しにくいが,十二指腸に胃上皮化生が生じるとピロリ菌が感染し潰瘍発生母地となる.日本人では多くの感染者で活動性胃炎が胃体部へ進展し,汎胃型~胃体部優位型胃炎となる.長期間ピロリ菌が感染した胃粘膜では腺管上皮が減少し,分化型腺癌のリスクが高い萎縮性胃炎となる.
ピロリ菌にはCagAという癌蛋白を有する株がある.日本ではほとんどのピロリ菌がきわめて病原性が強い東アジア型のCagAを有しており,胃癌罹患率が高いことに関連している.
▼疫学
わが国のピロリ菌感染率は,1950年代以前の出生者では50%以上であるが,衛生環境の整備により低下しており,近年の中学生の健診では5~10%程度かそれ以下である.
▼診断
ピロリ菌感染診断では患者にあわせた検査を選択し,必要に応じ複数の検査を組み合わせる.
内視鏡検査を行って採取した検体を用いる侵襲的な検査として,培養法,鏡検法,迅速ウレアーゼ試験がある.培養された菌株を用いて薬剤感受性試験を行うことは抗菌薬の選択に有用である.一方,内視鏡検査を必要としない非侵襲的検査には,血中・尿中の抗ピロリ菌抗体測定法,便中ピロリ菌抗原測定法と尿素呼気試験がある.
胃X線検査,胃内視鏡検査はピロリ菌現感染の有無,既感染,未感染を判断するうえで有用である.特に内視鏡所見については後述する京都分類〔「自己免疫性胃炎」の項のトピックス参照→〕としてまとめられている.
▼治療
一次除菌ではPPIまたはカリウムイオン競合型
関連リンク
- 新臨床内科学 第10版/(2)自己免疫性胃炎
- 治療薬マニュアル2024/アモキシシリン水和物《サワシリン パセトシン ワイドシリン》
- 治療薬マニュアル2024/クラリスロマイシン《クラリシッド クラリス》
- 治療薬マニュアル2024/メトロニダゾール《フラジール》
- 臨床検査データブック 2023-2024/抗ヘリコバクター・ピロリ抗体 [保]*
- 今日の治療指針2023年版/H. pylori感染胃炎
- 臨床検査データブック 2023-2024/大腸菌ベロ毒素(トキシン)〔VT〕《志賀毒素〔Stx〕,志賀毒素様毒素〔SLT〕》 [保] 189点
- 新臨床内科学 第10版/(1)クロストリディオイデス・ディフィシル感染症
- 新臨床内科学 第10版/3 消化性潰瘍(胃潰瘍,十二指腸潰瘍)
- 新臨床内科学 第10版/7 赤痢アメーバ症
- 新臨床内科学 第10版/10 サルモネラ感染症
- 新臨床内科学 第10版/5 クロストリディオイデス(クロストリジウム)・ディフィシル腸炎
- 今日の診断指針 第8版/胃炎
- 今日の診断指針 第8版/ヘリコバクター・ピロリ感染症
- 今日の診断指針 第8版/小児の消化性潰瘍