▼定義
緩徐進行性でかつ対称性の錐体路障害所見が前景に立つ脊髄症.血液および髄液中HTLV-1抗体陽性.
▼病態
HTLV-1は生体内ではほぼCD4陽性Tリンパ球に感染している〔第8章「成人T細胞白血病・リンパ腫」の項のトピックス参照→),第11章「ヒトT細胞白血病ウイルス(HTLV-1)感染症」の項(→)も参照〕.感染リンパ球が脊髄に侵入し,ウイルス蛋白を発現するとこれに応答してマクロファージや細胞傷害性Tリンパ球が脊髄に侵入し炎症をきたす.病理学的には胸髄を中心に著明なリンパ球浸潤とマクロファージの活性化を認め,髄鞘染色では側索を中心とした淡明化を認める.
▼疫学
日本にはHTLV-1ウイルス感染者(キャリア)が108万人おり,キャリアはその生涯を通じて0.25%にHAMを発症する.HAM患者は3,600人程度である(2007年).発症平均年齢は,男性54.8歳,女性50.6歳で男女比は1:3で女性が多い.
▼診断
➊主症状
歩行障害,排尿障害,両下肢感覚障害などである.運動障害は,典型的な痙性歩行の患者もいるが,膝を伸ばせず腰が引けた前傾姿勢の痙性麻痺の患者が多い.HAMは傍脊柱筋が萎縮していることが多いのでCT検査で確認する.感覚障害はきわめて軽いが下肢全体の筋肉痛や時に坐骨神経痛様症状を訴える者もいる.顕著な感覚低下はほかの疾患の合併を考える.排尿障害は運動障害よりも数十年早く単独症状で出現する例もある.下半身の発汗低下や便秘も多くの患者でみられるが,患者は発汗過多であると思っている(上半身の代償的発汗過多)ことが多い.全員に共通する点としては下肢の痙性と深部腱反射亢進,下肢の異常反射である.Babinski(バビンスキー)signやChaddock(チャドック)signが出なければそれだけでHAMらしくない.上肢深部腱反射や下顎反射も亢進していることが少なくない.
➋合併
関連リンク
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