▼定義
運動障害〔小脳症状またはParkinson(パーキンソン)症状〕と,自律神経障害の両者を有する疾患である.運動障害の責任病巣として,脳に異常がみられる.自律神経障害の責任病巣として,臓器や臓器内の(末梢節後)神経には異常がみられず,臓器を支配する中枢である脳幹や脊髄(節前)に異常がみられる.すなわち,MSAでは脳と脊髄に病変がみられる.1900年にパリのDejerine,Thomasが最初に記載した.
▼病理・病態生理
MSAでは小脳系,大脳基底核系,脳幹・脊髄に変性がみられ,それぞれ小脳症状,Parkinson症状,自律神経症状に対応する.
このうち小脳系では,小脳のPurkinje(プルキンエ)細胞と,その求心路である小脳白質,中小脳脚,オリーブ小脳線維,橋底部にある橋核神経細胞などが変性,脱落する.基底核系では,Parkinson病と異なり,黒質緻密層のドパミン含有細胞のみならず,その受け手側である被殻の細胞も変性,脱落する.このため,Parkinson病と異なり,ドパミン補充療法が十分に効きにくい.自律神経系の,起立性低血圧については,遠心路である脊髄(胸髄部)中間外側核の交感神経節前細胞(アセチルコリン含有細胞)と循環中枢である延髄カテコールアミン含有細胞が変性,脱落する.残尿・尿閉,高度便秘については,遠心路である脊髄(腰仙髄部)中間外側核,延髄迷走神経背側核のアセチルコリン含有細胞が変性,脱落する.便失禁・括約筋筋電図の神経原性変化については,仙髄Onuf(オヌフ)核細胞が変性,脱落する.睡眠時無呼吸などの呼吸障害,突然死については,橋延髄のノルアドレナリン含有青斑核・セロトニン含有縫線核,疑核などが変性,脱落する.
MSAの生物学的マーカーとして,αシヌクレイン陽性の神経膠細胞(グリア細胞)内封入体(glial cytoplasmic inclusio
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