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5 生物毒素中毒による神経障害
川井 元晴
(山口大学大学院准教授・臨床神経学)

疾患を疑うポイント

●毒素の曝露機会を問診することが大切だが,疑わなければ診断できない.

●主な生物毒素中毒の特徴を把握しておくことが重要.

学びのポイント

●生物毒の作用機序により症状に特徴がある.ボツリヌス毒素,テトロドトキシンは神経麻痺を生じ,アルカロイドは副交感神経系に障害を及ぼす.

●身体所見をおろそかにしない.死因の多くは呼吸循環障害であるため重症例は集中管理が必要.

▼定義

 食中毒は,食品に起因する胃腸炎・神経障害などの中毒症の総称であり,原因物質により神経障害を起こす.咬傷・刺傷は昆虫や動物により毒物が体内に吸収されて神経障害が生じる.

▼病態

‍ ボツリヌス毒素はアセチルコリンの放出を阻害することで,テトロドトキシンはナトリウムイオンチャネルを阻害することで神経麻痺を生じる.植物毒のアルカロイドにはムスカリン作用やアトロピン作用がある.ハチ毒による神経障害のほとんどはアナフィラキシーショックに伴うけいれんや昏睡である.破傷風は破傷風毒素による神経障害である.

▼疫学

 キノコ類で年間数百例の中毒患者が発生しており,その一部が神経障害を生じると考えられる.フグ中毒では年間20~30例,ボツリヌス中毒は数年に1例程度であるが,集団発生することがある.

▼分類

 食中毒のうち自然毒(細菌毒,植物毒,動物毒)が神経障害を生じる(表10-47).生物毒にかかわる咬傷,刺傷としてわが国でよく知られている有毒動物はマムシ,ハチ,腔腸動物である.魚による刺傷は神経系には影響しない.外傷に伴い生じる神経毒素の代表は破傷風毒素である.

▼診断

 消化器症状,呼吸状態や心機能など身体所見の観察が第一である.神経症状では意識レベルやけいれんの有無,アルカロイドでは瞳孔径(ムスカリン作用毒では縮瞳,アトロピン作用毒では散瞳)が重要である.

▼治療

 毒物の吸収を抑えることが救急処置の第一であるが,神経症状には対

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