▼定義
ヒトパピローマウイルス(human papillomavirus:HPV)は,ヒトにのみ感染するDNAウイルスである.100以上の遺伝子型(genotype)が存在し,それぞれHPV1,HPV2……と表記されるが,この遺伝子型により感染する部位と表現型(疾患)が異なっている(表11-21図).
皮膚に感染するHPVを皮膚型HPV,粘膜に感染するHPVを粘膜型HPVとよぶ.いずれも重層扁平上皮の基底層にある基底細胞に感染する.感染成立にはHPVが標的細胞に到達する必要があるため,基底層に達する傷と相応のウイルス量(濃度)が必要である.そのため,公衆浴場を含め日常生活上の曝露でHPVに感染することはない.粘膜型HPVは主に性行為による曝露で感染する.まれな病態として,妊婦の尖圭コンジローマからHPVが産道感染として,あるいはHPVが性的虐待として小児に感染して発症する若年性再発性呼吸器乳頭腫症がある.
HPVは皮膚・粘膜だけでなく眼球および眼瞼結膜に感染して結膜乳頭腫を起こしうる.
▼疫学
HPVはウイルス血症を呈さないため,免疫刺激が弱くHPVの抗体陽転化率は50~70%程度と考えられており,それが血清を用いた疫学研究を難しくしている.日本女性における生殖器粘膜の擦過上皮細胞のHPV-DNA検査では,10歳代で30~40%,20歳代で20~30%,30歳代で10~20%,40歳代で5~10%と年齢とともに陽性率は低下することが知られている.生殖器粘膜にHPVが感染した場合でも,多くは一過性感染であり2年以内に90%程度は免疫機構により自然に排除されると考えられている.しかし前述のように,HPVは感染による中和抗体の誘導能が低く,抗体陽性者も抗体価が低いため,排除後も再度同型のHPVに感染するリスクは残存している.子宮頸癌の場合にはHPV感染者の1,000人に1人程度
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