感染症は,ほかの疾患と異なり原因となる微生物が存在する.原因微生物は,主に細菌,真菌,ウイルスであるが,このほか生物学的に遺伝子をもたないプリオン蛋白や,体長が数mmから10m近くにもなる寄生虫なども感染症を引き起こす.感染症治療の第一歩は,こうした原因の見極めである.治療には抗菌薬,抗真菌薬のほか,数は少ないものの抗ウイルス薬や駆虫薬などが用いられるが,原因となる病原体を見誤ると,全く異なる薬剤を選択してしまい患者が不利益を被ることになる.
感染症治療薬のなかで最も種類が多い抗菌薬は,細菌を標的にしているが,細菌にはグラム陽性菌,グラム陰性菌,嫌気性菌のほかマイコプラズマ,レジオネラ,リケッチア,クラミジアなどの非定型菌や結核菌などの抗酸菌など多岐にわたる.このうち特に前者3つは,われわれ宿主に常在している菌も多く,臨床検体からこうした菌が検出された場合に真の原因となっているのか,もしくは定着(colonization)なのかの見極めが重要である.抗菌薬は,静脈内もしくは経口内服にて投与され,血漿中蛋白非結合のフリー体が感染部位の細菌に作用する.感染部位は通常は炎症が起こっているため血流にのって薬物が病原体まで到達しやすいが,上気道粘膜などに定着している場合,正常の粘膜表面に血流が行きわたらないため,フリー薬物も到達せず殺菌に至らない.このように上気道粘膜に定着しているだけの細菌が喀痰に混入しただけでも,喀痰培養検査では発育した病原菌名として報告されてくる.これを原因菌として判断すると,時に真の原因菌を見誤ることがある.
血液や尿など本来,無菌の検体から細菌が検出された場合は,それが原因菌である可能性がきわめて高いが,喀痰など常在菌の混入が多い検体は,喀痰のグラム染色を行い,好中球が貪食している細菌があるかどうか(図11-39図)を確かめることが重要である.また,血液検
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