診療支援
治療

1 偶発性低体温症
accidental hypothermia
中野 実
(前橋赤十字病院・院長)

▼概説

 意図されずに深部体温が35℃以下になった病態.

▼発症のメカニズム

 身体の熱喪失量が熱産生量を上回る結果として体温低下が起こる.熱喪失量の増大は寒冷曝露や冷水浸潤などの環境因子と,患者側因子がある.

 熱喪失量の増大や熱産生量の不足を招く患者側因子には,薬物(鎮静薬,抗不安薬,抗精神病薬),頭部外傷・脊髄損傷・広範囲熱傷,脳疾患〔脳血管障害,Wernicke(ウェルニッケ)脳症,Parkinson(パーキンソン)病〕・精神疾患・内分泌疾患(甲状腺機能低下症,副腎不全,視床下部障害,下垂体機能低下)・重症感染症・敗血症・末梢神経障害・末梢血管障害などの疾患,高齢者・乳幼児・路上生活者・泥酔者,低栄養状態・脱水・疲労・低血糖などの状態がある.

▼疫学

 多くは原疾患の悪化・低栄養状態・寒冷環境などの結果として生じており,冬季に起こりやすく,屋内発症が屋外より3倍多い.また,圧倒的に高齢者が多く,その25%が一人暮らしで,40%以上が日常生活でなんらかの障害を有している.

▼分類

 深部体温を指標とした重症度分類は,カテゴリーの境界とする温度が提唱者により異なるため複数存在するが,一般的には軽症は35℃以下32~34℃以上,中等症は32~34℃以下28~30℃以上,重症は28~30℃以下と3段階に分類される.

▼診断

 診断は深部体温測定で確定される.

 体温低下の程度に応じて各機能の障害がみられる.

 中枢神経系では,軽症で軽度意識障害,腱反射亢進,感情鈍麻,構音障害.中等症で意識障害,腱反射低下,錯乱・幻覚.重症で昏睡,腱反射消失,瞳孔散大,平坦脳波.

 呼吸系では,軽症で頻呼吸,中等症で徐呼吸,重症で呼吸停止.

 循環系では,軽症で頻脈,高血圧.中等症で心拍数軽度低下,PQ・QR・QTSの延長,T波逆転,種々の不整脈.32℃以下で心房細動,J波(Osborn wave).重症で徐脈,低血圧

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