【疾患概念】
高エネルギー外傷(交通事故,労働災害など)により,主要動脈が損傷を受けると,そこから末梢に血行不全が生じるため,すみやかな診断と治療が要求される.放射線科医,血管外科医,微小外科医といった専門医との連携が不可欠である.
【臨床症状】
古典的な5P(pain,paleness,paralysis,paresthesia,pulselessness)は揃わないことも多い.本幹の損傷でも,その中枢からの側副血行路が存在すると完全阻血にならないことも多いからである.そのような場合に放置されると,末梢が完全壊死には陥らないものの,血流供給不足で間欠跛行のような症状が残る場合がある.開放骨折であれば,その骨折断端による損傷を疑う.閉鎖性骨折であれば,動脈損傷の好発部位があるので(上腕骨遠位,脛骨近位),その骨折では注意を払う必要がある.
診断のポイント
身体所見で重要なのは,末梢の動脈拍動が触知可能かどうかである(図2-9図).骨折を合併することが多いので,骨折に気をとられて循環のチェックをおろそかにしないことが重要である.側副血行路があると,完全に蒼白にはならないので見逃されやすくなる.患肢をいったん挙上してから降ろすと,側副血行路のみの循環では,すぐに血色が戻らないので診断の一助になる.また,阻血時間が長くなると感覚・運動麻痺が生じるので,搬送されたときからその程度を経時的にチェックする.血管造影や造影CTで動脈の損傷部位を特定する.開放創であれば,クリップなどで止血してから検査を行う.側副血行路の評価のためにも,損傷部位が見えていても,造影評価は必要である.
治療方針
搬送されてきた患者の動脈損傷に気づいたら,すぐに末梢患肢のクーリングを行い,少しでも阻血による組織損傷を軽減させておく.治療方針には,受傷からの経過時間が重要な因子である.早期であれば血管縫合または血管移植