診療支援
治療

筋・神経疾患の臨床診断
Clinical diagnosis of neuromuscular diseases
安藤 哲朗
(亀田総合病院 部長(脳神経内科)〔千葉県鴨川市〕)

 この項では筋・神経疾患の臨床診断の原則と実際のポイントを概説し,整形外科疾患と特に間違われやすい神経・筋疾患についても簡単に記述する.


1.問診と神経学的診察のポイント

【1】神経学的診察は患者が診察室に入ってくるときから始まる

 患者が診察室に入ってくるときの様子をしっかり観察すると,多くの情報が得られる.表情はどうか,動作は機敏か緩慢か,歩き方はどうかなどを見る.経験を積むと,パーキンソン症候群は入室して椅子に座るまでの間にほとんど診断をつけることが可能である.また衣服を脱ぐ動作の観察も重要である.ボタンをはずす動作がうまくできるかを見れば,手指の筋力低下や巧緻運動障害がわかる.シャツを脱ぐときに肩が上がるかどうかで,上肢近位部の筋力低下がわかる.詐病やヒステリーにおいては,そのような動作と筋力テストとの間に乖離がみられる.

【2】病歴聴取中も話を聞きながら観察を続ける

 最初の3分程度は患者に自由に話してもらう.病歴聴取は情報を得ると同時に信頼関係構築のプロセスでもあるので,うなずきなどで患者の思いを受け入れていることを示す.病歴聴取中も,カルテを記載しながら患者の観察を続ける必要がある.話し方からは構音障害や失調,表情からは病状の重篤さがわかり,全身の観察により会話中に出現する不随意運動の有無がわかる.

【3】部位診断と質的診断の2方向からアプローチする

 部位診断は,脳,脊髄,末梢神経,筋肉のどの部位に病変が存在するかを診断するもので,神経学的診察による運動・感覚障害の分布,反射の評価などの分析が重要である.病変が局所的なものか,系統的なものか,あるいは散在性のものかを判断する.そのためには,主訴以外の患者自身も気づいていない部位の所見にも注意する.顔面筋の筋力低下や構音障害の有無は特に重要である.部位診断は通常は病変が1つという一元論仮説に基づくが,高齢者の場合には複数の病

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