診療支援
診断

抗リン脂質抗体症候群
††
Anti-phospholipid Syndrome (APS)
藤井 隆夫
(和歌山県立医科大学教授・リウマチ・膠原病科学講座)

診断のポイント

【1】リスク因子の乏しい若年に発症する動静脈血栓症。

【2】胎盤の循環不全に起因する妊娠合併症。

【3】抗カルジオリピン抗体,抗β2-グリコプロテインI(GPI)抗体,ループス抗凝固因子のいずれかが陽性。

【4】全身性エリテマトーデスに合併することが多い。

緊急対応の判断基準

【1】血栓症:脳梗塞,心筋梗塞,肺梗塞,腎梗塞,腸管梗塞などあらゆる臓器に動静脈血栓症が起こりうる。血栓症を起こした場合には,それぞれの臓器専門家にコンサルトを行う必要がある。超急性期には血栓溶解療法,血栓除去術を考慮する。

【2】流産・胎児発育不全:妊娠中期(10週)以降の流産,子宮内胎児発育不全などが起こる可能性があり,抗リン脂質抗体陽性症患者の妊娠中は婦人科と膠原病内科との十分な連携を行う。

症候の診かた

【1】中枢神経症状:脳梗塞のみならず舞踏病,てんかん,認知障害,横断性脊髄炎症状に注意する。

【2】眼症状:一過性黒内障や網膜中心動脈閉塞症を疑う。

【3】肺症状:胸痛や労作時の呼吸困難を訴える場合,肺梗塞や肺の微小血栓による肺高血圧症の可能性を考える。

【4】腹部症状:腹痛を訴えた場合,虚血性腸炎(腸間膜動脈血栓),肝梗塞(図1)の鑑別を行う。

【5】筋骨格系:急激な下肢痛をきたした場合には,深部静脈血栓症を疑う。

【6】血液系:抗リン脂質抗体陽性患者では軽度の血小板減少症(50,000~100,000/μL)を認めることがある。

【7】妊娠関連:習慣性流産,妊娠高血圧症候群,子宮内胎児発育遅延に注意する。

検査所見とその読みかた

 APSが疑われるときには,まず抗リン脂質抗体を測定する。

【1】抗カルジオリピン抗体(anti-cardiolipin antibody:aCL):多様な特異性のリン脂質に対する抗体を検出しうるが,血栓症に対する特異度は低い。

【2】抗β2-GPI抗体(β2-GPI依存性aCL):

関連リンク

この記事は医学書院IDユーザー(会員)限定です。登録すると続きをお読みいただけます。

ログイン
icon up
あなたは医療従事者ですか?