診療支援
治療

うつ病・大うつ病性障害(幻覚妄想を伴う)
major depressive disorder with psychotic features
杉山暢宏
(信州大学教授・実践作業療法学)
高橋由佳
(信州大学大学院博士課程)

◆疾患概念

【定義・病型】

 うつ病・大うつ病性障害major depressive disorderに幻覚または妄想を伴う場合,DSM-5ではうつ病,精神病性の特徴を伴うもの,と診断される.重症度判定はDMS-Ⅳ-TRでは「296.x3重症,精神病性の特徴を伴わないもの」と「296.x4重症,精神病性の特徴を伴うもの」とされていたが,今改訂によると軽度,中等度,重度がそれぞれ296.x1,.x2,.x3とコードされ,精神病性の特徴が認められる場合にはエピソードの重症度にかかわらず「296.x4精神病性の特徴を伴う」とコードすることになった.精神病性うつ病は臨床的に全例重症であり,非精神病性うつ病とは治療方針が大きく異なり,特別な治療が必要となるため,適切な改訂である.

 精神病性の特徴は,気分に一致しているか一致していないかを特定できる場合がある.例えば罪業妄想,心気妄想,貧困妄想など,抑うつ気分から明らかに了解可能な妄想を呈した場合,「気分に一致する精神病性の特徴を伴う」と特定する.一方,典型的な抑うつ性の主題を何ら含んでおらず,抑うつ気分と調和しない奇妙な幻覚妄想を呈する場合がある.この場合,「気分に一致しない精神病性の特徴を伴う」と特定する.考想吹入,考想伝播などの症状がみられた場合も気分に一致しない精神病性の特徴とする.

【病態・病因】

 病態とそのたどる経過は多彩である.精神病性の特徴が気分に一致しているかどうかの鑑別は必ずしも単純ではない.病相初期には軽度の心気妄想であっても,病勢増悪により「私はどうせ死ぬのだから,みんなで私を殺そうとしている.食事には毒が盛ってあり点滴には劇薬が混ぜてある」と被害的な色彩を帯びて変化し,それがエスカレートして医療の介入に過敏に反応し,あるいは攻撃的に抵抗して,最終的に強い被害妄想や幻覚を伴う精神運動興奮状態に至ることもある.

 精神病性

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