診療支援
治療

高齢期の睡眠障害
sleep disorders in the elderly
吉田 祥
(吉田診療所・院長(大阪))
清水徹男
(秋田大学大学院教授・精神科学)

加齢により睡眠に生じる変化

◆疾患概念

【定義・病型】

 加齢現象は身体面,精神面にさまざまな形で表れるが,睡眠にも加齢による変化が生じる.主観的には寝つきが悪い,何度も目が覚める,朝早く目が覚めるといった訴えが増える.終夜睡眠ポリグラフ検査による客観的な評価では,夜間の総睡眠時間の減少,入眠後の総覚醒時間の増加と睡眠効率(夜間に就床している時間のうち,実際に眠っている時間の割合)の低下がみられる.また浅い睡眠(睡眠段階1,2)の割合が増え,深い睡眠(徐波睡眠)が減少する.これらの変化から,中途覚醒や熟眠障害などの自覚に結びつくことがある.

【病態・病因】

 加齢による変化は体内の概日リズムをコントロールする時計機構(生物時計)にも生じる.その結果,深部体温の振幅の減少や就床・起床時刻の位相前進(早寝早起き傾向)といった現象が起きやすい.また高齢者では全体的な活動量が低下しやすく疲労感が少ないため,疲労回復のための睡眠が生じにくくなる.活動性の低下から日中の光曝露量が減少し,その結果夜間のメラトニン分泌の低下が生じる.メラトニン分泌は夜間にピークをもち,睡眠導入や概日リズム調整に重要であるため,夜間のメラトニン分泌の低下は不眠の原因となりうる.

【治療方針】

 加齢による睡眠の変化が必ずしも治療の対象となるわけではないが,中途覚醒,早朝覚醒,熟眠障害などが続き,日常生活に支障をきたすようであれば治療を要する.70歳以上では夜間の睡眠時間は6時間,臥床時間は7時間を目途とするとよい.治療方針は後述の「高齢期の不眠症」に準ずる.

高齢期の不眠症

◆疾患概念

【定義・病型】

 心身ともに健康な高齢者では不眠の訴えは少ないと報告されている.しかし現実問題として60歳以上では約30%が不眠を訴え,それは成人における頻度よりもはるかに高い.高齢期では,加齢変化による影響に加えて下記のような要因が複合的に関与

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