◆疾患概念
【定義・病型】
神経梅毒はスピロヘータのtreponema pallidum感染後に生じる神経系疾患の総称である.treponema pallidumは主に血行を介して中枢神経系に侵入し,初感染後,数年から十数年経過したのちに髄膜や髄膜血管,脳・脊髄実質とその血管に障害を引き起こす.
神経梅毒の病型分類は,無症候性神経梅毒や,髄膜炎・脳炎に類似し多発性脳神経麻痺などを呈する脳髄膜型,主として中大脳動脈などを侵し一般的な脳梗塞と鑑別が重要となる脳血管型,急性や慢性の横断性脊髄障害を呈する脊髄髄膜血管型,感染後10-20年で出現し進行性認知機能障害と性格変化など精神症状を呈する進行麻痺,さらに歩行障害を初発症状とし進行性の脊髄後索性運動失調を呈する脊髄癆などがよく知られている.
【疫学】
ペニシリン療法の確立とともに梅毒の頻度は1942年の10万人当たり5.9人から1965年の0.1人へと激減したが,その後のAIDSの登場と蔓延に伴ってAIDS合併症としての神経梅毒がわが国でも増加している.また最近の傾向では実質性神経梅毒よりも髄膜血管型が増加しているのが特徴である.
◆診断のポイント
神経梅毒の診断は神経梅毒を疑う臨床症状と病歴と経過,梅毒感染を裏づける血清梅毒反応陽性(STS,TPHA,FTA-ABS),髄液中のTPHAやFTA-ABSが陽性であり細胞増多や蛋白高値がみられること,髄液中でのtreponema pallidumに対する局所抗体産生所見(IgM-TPHA)を得ることが重要である.進行麻痺や脊髄癆患者では瞳孔不同や対光反射の異常をみることが多く,Argyll Robertson瞳孔(対光反射消失,近見反射保持)も半数程度にみられる.
日本国内でもHIV感染者が増加するにつれ,梅毒の混合感染が多くなりAIDS患者における梅毒と神経梅毒の合併もまた増加している
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