診療支援
治療

精神科で注意すべき身体所見
psychiatry patient's physical findings
本田 明
(東京武蔵野病院・内科医長)

 基本的な身体診察はすべての医師にとって必須の技術であるが,身体合併症では患者の訴えの乏しさや,興奮・拒否のなかで行わなければならない場面に遭遇する.

◆身体合併症での身体診察のポイント

A.バイタルサイン

 精神科病院でも簡便に行える.普段からバイタルサインの経過観察を看護師に任せきりにせず,熱型表などで随時確認をしておく.患者に何か変化が起きたらまずバイタルサインを測定する癖をつける.1回だけの測定だけでなく,経時的な変化も大切な情報である.

1.体温

・上昇:感染,腫瘍,膠原病のほか,悪性症候群,セロトニン症候群,アルコール・薬物離脱,緊張病など精神科領域に特徴的な発熱も注意する.

・低下:急性薬物中毒では低体温がみられることがある.重篤な敗血症も低体温をきたすことがある.

2.血圧

・上昇:精神症状による興奮でも血圧は上昇するが,容易に断定するのは危険である.訴えの乏しい患者の場合,疼痛など何らかの身体症状が背景にあることがある.

・低下:低血圧は慢性であれば向精神薬の影響も疑われる.ショックでは原因検索と対症療法を同時に行う必要がある.

3.脈拍

・上昇:頻脈は心疾患のほか,発熱,疼痛,興奮,脱水,出血などでも出現する.抗コリン作用やα受容体遮断作用のある向精神薬では頻脈をきたすことがある.ショックでは血圧が低下する前に脈拍が上がることが多い.甲状腺機能亢進症に伴う症状精神病でも頻脈をきたす.

・低下:徐脈は高度なものであれば緊急性が高い.コリン作動性の抗認知症治療薬でも徐脈をきたすことがある.

4.呼吸数

・上昇:肺炎・喘息などで上昇するほか,精神科領域では興奮,過換気などで上昇する.

・低下:睡眠薬の呼吸抑制により低下することがある.睡眠時無呼吸症候群でも低下する.

B.頭頸部の診察

1.眼球突出の有無

 側方から観察する.甲状腺機能亢進にて突出することがあるので,頸部腫脹の有無を確認して甲状腺

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