●多剤耐性菌の現状
耐性菌の問題は,抗菌薬が臨床現場に登場してからすぐに問題となり始め,すでに数十年が経過している.なかでもメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(methicillin resistant Staphylococcus aureus;MRSA)が1961年に英国で初めて報告されてからすでに約60年が経過している.MRSAについては,医療現場で,医療者の手を介して蔓延することが知られており,その対応は世界的にも最も重要視されてきた.オランダ,デンマーク,スウェーデンなどの欧州諸国では,戦略的な対応で,“Search and Destroy”(検査と除去)を実施し,オランダではMRSAの蔓延率が1%以下を実現してきた.患者,医療従事者,外国からの患者,見学者などに対してMRSAの鼻腔スクリーニングを施行し,保菌者に除菌クリームでの対応がされてきたのである.
そのほかのグラム陽性球菌では,バンコマイシン耐性腸球菌(vancomycin resistant Enterococci;VRE)の問題が,1980年代から北米および欧州で報告され,現在も,免疫不全患者,集中治療患者を中心に大きな問題となっている.本邦では幸いにも,蔓延する状況にはなっていない.腸球菌は,腸内細菌であるがゆえに,患者が保菌する性質もあり,また患者周辺の環境表面(カルテ,ベッドなど)にも長く定着することも知られ,対応が困難である.標準予防策,接触感染対策の遵守が望まれる.またペニシリン耐性肺炎球菌,ペニシリン低感受性緑色連鎖球菌などの問題もある.
一方で,グラム陰性桿菌の耐性化の問題は,1990年代初頭に,日本から世界で初めてカルバペネム耐性緑膿菌が報告された.その後,国内では多剤耐性緑膿菌(multi-drug resistant Pseudomonas aeruginosa;MDRP)が問題となり始
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