診療支援
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主な原虫症の概説
髙橋 優三
(岐阜大学名誉教授)

 日本での臨床実務で知っておきたい8つの原虫症の概略を説明する.

■トキソプラズマ症

 トキソプラズマ症はトキソプラズマ原虫を病原体とする人獣共通感染症(ヒトは中間宿主)で,世界中に分布する重要な寄生虫疾患である.臨床症状は感染時期や感染者の免疫状態に左右される(日和見感染症).本症は初感染の時期の重要性に鑑み,後天性感染と先天性感染に分けて考える.

 後天性感染は,経口感染(豚や羊肉を生食してシストを摂取,またはネコの糞中の感染型オーシストを誤って摂取)によるもので,健常者が初感染した場合は,不顕性感染に終わることが多い(約10~20%の患者は,感冒や伝染性単核球症のような症状を呈する)が,生涯にわたり原虫を保有することになる.ただし他人への感染源になることは,妊娠時の経胎盤感染を除けば,通常ありえない.

 この後天性感染で臨床上問題になるのは,主に①免疫不全者と②妊婦の初感染の2つの場合である.

 免疫不全者が初感染を受けた場合,虫体の数が急増して重篤な感染症状を引き起こす.また,すでにトキソプラズマに感染している保虫者が免疫不全に陥れば,免疫で抑えられて潜伏していた虫体が再び急増して,脳炎(意識障害,痙攣,視力障害)や肺炎などの重篤な症状を引き起こす.

 妊婦の初感染は胎児への経胎盤感染を起こし流産,死産,たとえ生まれても先天性感染の原因となりうるため,妊婦で抗体が陽性と判明した場合には,感染の時期の推定が必要となる.妊娠前からの既感染は,妊婦が免疫不全にならない限り,臨床上の問題とはならない.

 先天性感染は上記の経胎盤感染が原因で,症状は感染した時期(妊娠初期の感染が重症化しやすい)など種々の要因に左右されるが,水頭症,発達遅延,視力障害,脳性麻痺など重篤な症状が,新生児期のみならず,小児期になって徐々に出現する場合もある.

 眼トキソプラズマ症は,眼に孤発して発症するが,これ

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