A.ER診療のポイント
●呼吸不全の原因となる慢性疾患がない患者において,呼吸機能が急速に低下し,室内気吸入下でPaO2≦60Torr(P/F比≦300とほぼ同義)を満たす場合に急性呼吸不全と診断する.さらにPaCO2≦45TorrのI型,PaCO2>45TorrのII型に分類される.狭義には,急性肺損傷(acute lung injury:ALI)/急性呼吸窮迫症候群(acute respiratory distress syndrome:ARDS)とほぼ同義で用いられる場合もある.
●慢性呼吸不全の急性増悪は,文字どおり慢性呼吸不全状態にある患者の呼吸状態が急速に悪化したもので,基礎疾患を有しない急性呼吸不全とは診断上区別されるが,初期診療はほぼ同じある.ただし後者では治療目標が病態安定時と同程度の酸素化となる点が異なる.
●呼吸停止など急変し得る病態であり,適宜酸素投与を開始しつつ迅速に診療を進める必要がある.
B.最初の処置
1バイタルサイン,呼吸状態,SpO2,簡単な病歴の確認と気道確保
①呼吸数が30回/分以上ある場合⇒重症と判断する.
②ショック状態⇒敗血症,緊張性気胸などの重篤な病態を示唆する.
③意識障害⇒中枢神経疾患の合併,CO2ナルコーシスなどを疑う.
④SpO2低値を認めた場合⇒迅速に診療する.ただし上気道閉塞は,SpO2にかかわらず緊急処置が必要である.
⑤病歴聴取:低酸素血症の原因となる疾患の既往,咳嗽,膿性痰,呼吸困難,起坐呼吸などの呼吸器症状および胸痛の有無を最低限聴取する.
2酸素投与,人工呼吸
1呼吸停止やその切迫状態(下顎呼吸など)は気管挿管,人工呼吸管理の適応である.SpO2≦90%であれば,直ちに酸素投与を開始する.91~95%の場合は,呼吸困難の訴えが強ければ,適宜酸素を投与する.
2それぞれの投与器具の特徴をよく理解したうえで選択し,十分な酸素化が得られ