A.ER診療のポイント
●胸背部痛患者の診察では,状態が安定しているという確証が得られるまでは,常に緊急性のある患者として対応する.
●不安定な要素が少しでもある患者では,簡潔な病歴聴取と身体所見に続いて,必要な検査を速やかに行うことを心がける.詳細な病歴聴取と身体所見は後回しでよい.
●胸背部痛患者の診療にあたり,思い浮かべるべき救急疾患は次の5つである.これらを忘れない姿勢を常にとること.
①急性冠症候群,②急性大動脈解離・胸部大動脈瘤(切迫破裂),③肺塞栓,④気胸,⑤特発性食道破裂
●鑑別疾患には緊急性の高いものが多いため,病歴,身体所見,心電図やX線などで少しでも疑いがあれば,さらなる検査や治療をためらわない.
B.最初の処置
1気道の確保・酸素投与と輸液
酸素投与開始.気道の開通に不安があるようであれば,気管挿管を行う.並行して心電図モニターと酸素飽和度のモニターを開始し,末梢静脈ライン確保のうえ輸液を開始する.
2簡単な病歴聴取と身体所見
1急性冠症候群が疑われる所見
①前胸部絞扼感・圧迫感は急性冠症候群に典型的な症状である.しかし,そうでない痛みであってもを鑑別から除外しない.
②一般的に左肩や頸部,下顎に放散する痛みは急性冠症候群による可能性が高いといわれているが,右肩への放散も関連が強いことが指摘されており,注意が必要である.
③心原性肺水腫の合併を示唆する呼吸苦や起坐呼吸,身体所見で頸静脈怒張,湿性ラ音が聴取されうる.
2急性大動脈解離が疑われる所見
①裂けるような激痛は急性大動脈解離の90%以上の患者にみられる.
②移動する痛みは急性大動脈解離にみられる症状としてよく知られているが,陽性尤度比が1.1~7.6と報告にバラつきがみられ,病歴として診断への有用性に疑問もある.
③脈拍欠損,20mmHg以上の両上肢血圧の左右差,神経学的異常所見が胸背部痛に伴えば,大動脈解離の可能性が有意
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