A.疾患・病態の概念
●肺炎分類としてこれまでは市中肺炎(CAP),院内肺炎(HAP),人工呼吸器関連肺炎(VAP)に分類されていたが,4つ目のカテゴリーとしてHCAPが認識された(図1図).
●HCAPが公式に登場したのは2005年のATS(米国胸部学会)/IDSA(米国感染症学会)の院内肺炎(HAP)ガイドラインであり,特に多剤耐性菌が原因菌となりうるリスクファクターを有する肺炎群として,その概念が提唱された.定義は,90日以内に2日以上の入院歴,90日以内にナーシングホームや長期療養型施設(特別養護老人ホーム老人保健施設療養型病院有料老人ホームなど)での居住歴,30日以内での化学療法(抗癌剤を含む)の既往,30日以内の透析歴,在宅における創傷治療,家族内の多剤耐性菌感染などである(表1図).この点から,HCAPは市中肺炎(CAP)と入院中に発症した肺炎(HAP)のほぼ中間に位置づけられる.
●HCAPは,患者背景,原因微生物,薬剤耐性度,重症度,転帰いずれにおいてもheterogenousな広いスペクトルをもった疾患概念であり,CAPに近いものからHAP同等のものまでが含まれると考えられる(表2図,図2図).特にわが国では,入院の基準が欧米より比較的ゆるいために,直近の入院歴を有することによってHCAPの範疇に入る症例の割合がより多くなるものと思われる.そのため,ATS/IDSAのガイドラインのように,HCAPすべてを薬剤耐性菌のリスクありとして対処することは問題がある.HCAPのなかでもリスクや重症度による分類を行うことが必要と思われる.わが国に特徴的な医療制度(介護保険や国民皆保険など)を考慮し,2011年8月に日本呼吸器学会より介護(nursing)を加えた医療・介護関連肺炎(Nursing and Healthcare-Associated Pneumonia)のガ