診療支援
治療

心筋炎
myoearditis
花田裕之
(弘前大学准教授・災害医学)

A.疾患・病態の概要

●心筋炎は心筋を標的器官とする炎症性疾患である.確定診断が難しいことや不顕性のものがあることから発症率,死亡率は不明であるが,発症頻度は少ない疾患である.トロントの小児救急病院1施設5年間の18歳以下を対象としたレトロスペクティブ調査では,236,365人の受診者中,心筋炎または心筋炎の疑いとされたのは31人(0.01%)であったが1),若年者における心臓突然死の剖検での検討からは10~42%に心筋炎が認められ,発症頻度は少ないが突然死の原因となる重要な疾患といえる2).原因の多くはウイルスなどの感染によって発症する(表13).この原因となるウイルスの多くは上気道炎や下痢などの一般ウイルス感染症の原因ウイルスであるため,いわゆるかぜ症候群とされるものの中から,心筋炎を見逃さないことが重要.

●心筋炎の一部には数時間のうちに循環が維持できなくなるような劇症型のものから,安静のみで改善するもの,おそらくは不顕性で終っているもの,慢性化して拡張型心筋症として発見されるものまでいろいろなタイプがある.いったん診断したら,循環器専門医に治療はゆだねることになるが,心筋炎を疑って検査まで持っていくことが救急医の役割といえる.

●特異的な症状はないが致死的になりえる心筋炎は,疑わない限り心電図や,採血検査など心筋炎を示唆する所見を得るには至らない.診察する患者の重篤感に対する感覚と,病歴や聴診といった一般的診察を怠らないことが重要である.


B.最初の処置

 頻脈性不整脈や徐脈性不整脈,心不全症状,胸部不快感や胸痛など心疾患を疑わせる心症状は初期の段階ではほとんどなく,初発症状は一般的なかぜ様症状,悪寒・発熱・頭痛・筋肉痛・全身倦怠感などや,食欲不振・悪心・嘔吐,下痢などの消化器症状である.これらの上気道炎様症状や消化器症状から数時間で循環不全に陥り致死的経過をとる,劇症型

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