A.疾患・病態の概要
●心臓は厚さ数mmの心膜に包まれている.心膜は壁側心膜と臓側心膜の2枚からなり,その間の心膜腔内はふつう10~20mL程度の心嚢液で満たされている.この心膜と心嚢液により,心臓はその位置や形状を保ち,収縮による摩擦を軽減させ,さらに外部から心筋への病原体などの侵入を防御している.
●心タンポナーデとは,何らかの原因で心嚢液が大量に,あるいは急速に貯留して,心嚢内圧が上昇し右房圧や右室拡張期圧と同等になり,右心系の拡張期充満が制限され,全身への循環動態が障害された状態をいう.閉塞性ショックをきたす病態の1つであり,緊急を要する.
●出血などにより急激に心嚢内に液体が貯留した場合,比較的少量の心嚢液(100~200mL程度)でも,急性の心タンポナーデが発生する一方,長い経過を経て慢性的に心嚢液が貯留した場合は,多量の心嚢液が貯留しても心膜が伸展して心機能への影響は少なく,明らか