診療支援
治療

心タンポナーデ
cardiac tamponade
武田 聡
(東京慈恵会医科大学講師・救急医学)

A.疾患・病態の概要

●心臓は厚さ数mmの心膜に包まれている.心膜は壁側心膜と臓側心膜の2枚からなり,その間の心膜腔内はふつう10~20mL程度の心嚢液で満たされている.この心膜と心嚢液により,心臓はその位置や形状を保ち,収縮による摩擦を軽減させ,さらに外部から心筋への病原体などの侵入を防御している.

●心タンポナーデとは,何らかの原因で心嚢液が大量に,あるいは急速に貯留して,心嚢内圧が上昇し右房圧や右室拡張期圧と同等になり,右心系の拡張期充満が制限され,全身への循環動態が障害された状態をいう.閉塞性ショックをきたす病態の1つであり,緊急を要する.

●出血などにより急激に心嚢内に液体が貯留した場合,比較的少量の心嚢液(100~200mL程度)でも,急性の心タンポナーデが発生する一方,長い経過を経て慢性的に心嚢液が貯留した場合は,多量の心嚢液が貯留しても心膜が伸展して心機能への影響は少なく,明らかな臨床症状を呈さないこともある.心タンポナーデは心嚢液貯溜により循環動態に障害が生じている病態であり,単なる心嚢液貯留とは明確に区別されるべきである.

●病的な心嚢液貯留による心タンポナーデは,心臓や大血管の外傷,心膜炎,心筋梗塞後の心破裂,急性大動脈解離などで起こる.

1心タンポナーデの原因

①胸部外傷(交通事故,刺創,銃創などによる心臓大血管損傷)

②急性大動脈解離,急性心筋梗塞(心破裂)

③感染性心外膜炎(ウイルス*1,結核菌,細菌など)

④医原性(心臓カテーテル治療による穿孔など)

⑤特発性

⑥その他(悪性腫瘍,膠原病,尿毒症,薬物アレルギー*2,放射線治療,Dressler症候群,開心術後など)

 *1:ウイルス性心外膜炎の原因ウイルスとしては,コクサッキーB,エコー,アデノ,ムンプス,EBウイルスなどがある.

 *2:薬物アレルギーの原因としては,プロカインアミド,ペニシリン,ヒドララジン,INH

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