診療支援
治療

大動脈解離
aortic dissection
下川智樹
(帝京大学主任教授・心臓血管外科学)

A.疾患・病態の概要

●大動脈解離とは「大動脈壁が中膜のレベルで2層に剥離し,動脈走行に沿って1~2cm以上の長さを持ち二腔になった状態」で,大動脈壁内に血流あるいは血腫が存在し,発症直後から経時的な変化を起こす動的な病態である.慢性期に入ると解離腔の拡大を示し,解離性大動脈瘤としての病態をとるようになる

●血管の状態を,①拡張または破裂,②狭窄または閉塞に分け,さらに解離の生じている部位との組み合わせることで多様な病態を理解する(図1).

●大動脈解離の臨床的病型は,3つの視点から分類されている.①解離の範囲からみた分類,②偽腔の血流状態による分類,③病期による分類である.病態を把握し,治療方針を決定するためには,これら3つの要素を組み込んで病型を表現する必要がある(図2).

●大動脈中膜が血腫により剥離しているが内膜亀裂がみられない壁内血腫(intramural hematoma:IMH)や大動脈の粥状硬化性病巣が潰瘍化して中膜以下にまで達するpenetrating atherosclerotic ulcer(PAU)の臨床的な定義と解釈は現在でも混乱しているが,臨床的には急性大動脈解離に準じた対応が必要であり,本項では偽腔閉塞型大動脈解離として扱う.前者は中膜栄養血管出血による局所血液貯留で,後者は内弾性板を越える粥状プラーク破裂,局所的中膜破壊である.

●いまだに急性期の死亡率は高くその予後は不良な疾患である.発症直後の死亡率は1~2%/時間といわれており,発症から治療開始までの時間をいかに短縮できるかが重要である.

●自然予後はきわめて悪く,海外の統計では,累積死亡率は24時間後21%,2週間後74%,1年後93%であった.最近の強力な降圧治療で予後はかなり改善され,わが国での内科治療による予後調査では,A型は急性期死亡35%,1年生存率53%,5年生存率46%,10年生

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