A.疾患・病態の概要
●急性胃粘膜病変(acute gastric mucosal lesion:AGML)とは,1968年にKatzらにより提唱された概念であり,急激に胃に発生する病変の総称で,胃粘膜に発赤・出血・浮腫・びらん・潰瘍などの異常所見を認める臨床的症候群である.彼らは,①急性びらん性胃炎,②急性胃潰瘍,③急性出血性胃炎の3つに分類し,このいずれかを認めるものをAGMLとした.しかしながら,この病変は炎症が胃壁全層に及ぶこともあることから,川井らは,急性胃病変(acute gastric lesion:AGL)という概念を提唱した.突発する胃症状を伴い,X線か内視鏡検査により胃粘膜に異常所見を認める病変を臨床的立場から一つの症候群としてとりあげたものである.当初は胃のみに限局されていたが,下部食道,十二指腸球部下行脚の一部にも同様な病態が起きることがわかってきており,上部消化管全体に起きる病変としてとらえることが重要である.
●急性胃炎とは,非常に漠然とした概念であり,様々な要因によって急激な胃粘膜の炎症が起こる疾患と定義され,上記のAGMLとほぼ同じと考えてよい.しかし臨床上症状のみでは,腹痛・悪心・嘔吐など様々な消化器症状を伴う機能性胃腸症(functional dyspepsia:FD)との鑑別がつかず,確定診断には内視鏡が必要である.以下,AGMLを中心に記述する.
●AGMLは,局所性や全身性など様々な原因によって発症することが知られている.表1図にその原因を示す.Helicobacter pylori感染が,一因として重要視されている.
●急性胃粘膜病変の大部分を出血性びらんが占め(90%),UL-Ⅱ以上の前庭部対称性病変が8%,体部の帯状潰瘍(trench ulcer)が3%を占めるという.慢性の潰瘍と異なり,深さや大きさが異なる不整形の様々な潰瘍を同時に
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