診療支援
治療

化学損傷
chemical injury
関 啓輔
(社会医療法人財団 大樹会 総合病院 回生病院 副院長兼救急センター長)

A.病態

 化学損傷とは,本来化学物質が人体に及ぼす毒作用全般の総称と定義されているが,一般的には酸やアルカリ・重金属・毒ガスなどの化学物質が,皮膚や粘膜などの組織と接触することにより組織との間に化学反応を生じて,組織が腐食され損傷することをさす.臨床像が熱傷と類似しているために化学熱傷とも呼ばれる.化学損傷では,組織に付着した化学物質が組織から除去・消費もしくは中和されない限り,腐食による反応が継続して組織損傷が進行していく点で熱傷と異なる.一般的に化学物質は容易には除去できず,組織への曝露時問が長くなるために,組織傷害が受傷当初よりも深部に及ぶ傾向がある.このため受傷早期に診断された重症度より,最終診断では重症度が重くなることが多い.

1原因物質別損傷機序

1 蛋白質と結合しacid albuminateを作る.要するに蛋白凝固壊死を起こすが,酸は吸水性があり水分を吸収し硬い乾性壊死組織となる.最も刺激作用の強いのはフッ化水素酸で,深部組織まで壊死となる.(塩酸⇒灰白色:漂白作用)(硝酸⇒黄色:キサントプロテイン反応)(硫酸⇒黒褐色:炭化作用)

 例:塩素,硫酸,硝酸,フッ化水素酸,リン酸

2アルカリ 吸水作用により細胞内脱水から細胞死を招き,鹸化作用により脂肪変性し反応熱を発生する.また,蛋白質と結合し可溶性のalkaline proteinateを形成しOHイオンがより深部組織に到達して組織を障害する.高濃度(pH>11.5)では接触数分後に刺激を感じるが,低濃度では麻酔作用が先行し数時間後まで刺激を感ぜず治療が遅れる.

 例:水酸化ナトリウム,水酸化カリウム,水酸化カルシウム

3腐食性芳香族 蛋白質の凝固変性を引き起こす.側鎖によっては酸またはアルカリとなって傷害する.

 例:フェノール,フェニルヒドロキルアミン,フェニルヒドラジン,無水フタル酸,ピクリン酸

4脂肪族化合物 

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