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部位別の身体診察:バイタルサイン
奈良 信雄
(日本医学教育評価機構 常勤理事/順天堂大学医学部 客員教授/東京医科歯科大学 名誉教授)

 バイタルサイン(vital sign,生命徴候)は,生命の維持に直接関係する“呼吸”と“循環”の状態を表す徴候である(表1)

 意識と体温は,それぞれ脳と皮膚という臓器の血流状態を示し,脈拍と血圧は心血管系の機能を示す.呼吸は呼吸機能の指標となる.したがって,バイタルサインは身体診察のなかでも最も基本的なもので,どんな患者に対しても必ず最初に観察する.特に重症な救急患者では迅速に,しかも繰り返して評価をする必要があり,バイタルサインに異常がある場合には,すぐに処置を開始する.

 バイタルサインは,医療面接,視診,触診,聴診など,基本的な診察法で確認できるが,重症患者では血液ガス,心電図,胸部X線撮影,血球検査,血清電解質検査などを用いて,より精密に評価しておく.

 なお,意識状態を“バイタルサイン”に含めないことも多いが,意識状態のチェックは救急患者の重症度を把握するのに重要であり,本書では含めて記載する.

意識状態

 意識状態(consciousness)は,感覚・注意・認知・思考・判断・記憶などの精神活動全般を統合したもので,大脳皮質全体の興奮水準を意味する.人間が生き生きとした生命活動を行っていることを示す根本的な徴候である.意識状態を把握するには,問いかけをしたり,刺激を与えたりして,患者がどう反応するかを注意深く観察する.

 意識がしっかりしている状態を“清明”という.周囲に関心を払い,対象を認知し,そして外部からの刺激にも適切に反応できる.

 これに対し,周囲への注意が鈍り,対象を正確に認知できず,さらに外部からの刺激に適切に反応しなくなった状態を“意識障害”(disturbance of consciousness)という.意識障害には,意識のレベルが低下して意識が混濁している場合(覚醒障害)と,興奮など意識変容を伴う場合がある.

 種々の脳疾患(外傷,脳血管障害,脳炎

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