診療支援
診断

胸水
pleural effusion
皿谷 健
(杏林大学大学院医学研究科臨床教授・呼吸器内科学)

胸水とは

定義

 胸水は胸膜腔(pleural space)内における体液の貯留である.胸膜の毛細血管より産生された胸水は,壁側胸膜と臓側胸膜でその一部が再吸収される.残りは胸膜中皮細胞層を通過して胸腔へ流れ,壁側胸膜のリンパ管を通じて吸収される.

症候から原因疾患へ

病態の考え方

 胸水産生の亢進か吸収の低下が胸水貯留の原因となるが,その機序は,①毛細管透過性の亢進,②静水圧の上昇,③膠質浸透圧の低下による.毛細血管透過性は血管内皮細胞増殖因子(VEGF)やトランスフォーミング増殖因子β(TGF-β)などのサイトカインにより制御されているが,炎症性サイトカイン(IL-8など)とVEGF,TGF-βの胸腔内の上昇は相関する.吸収の低下は,たとえば癌の縦隔リンパ節転移によるリンパ管の閉塞など,物理的原因の関与もある.

病態・原因疾患の割合

(図1)

片側性か両側性かでの鑑別

 胸膜疾患の鑑別は片側性か両側性かで異なる.片側性胸水では臨床的に悪性胸水(特に肺癌),結核性胸膜炎,肺炎随伴性胸水/膿胸の頻度が高い.両側性胸水の多くは左心不全や低蛋白血症である(図2).両側性胸水では,稀な原因として血管透過性が亢進する病態〔例:Crow-Fukase(クロウ・深瀬)症候群(欧米ではPOEMS症候群),TAFRO症候群〕などを考慮する.

胸水量からのアセスメント

 片側性胸水の少量胸水は,肺炎随伴性胸水,肺塞栓が一般的な病態である.両者ともに大量胸水になることはきわめて稀であり,胸部X線上で肺尖部から横隔膜面を3等分した場合,横隔膜面から1/3~2/3の範囲にあることが多い(図3).結核性胸膜炎は1/3~2/3の領域にとどまり,慢性経過であることが多い.結核性胸膜炎の発症早期は胸痛を伴う傾向があり,大量胸水は比較的稀であるため,大量胸水の場合は悪性胸水をまず考える.肺腺癌,悪性胸膜中皮腫,悪性リンパ腫

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