診療支援
治療

1 労作性狭心症
effort angina
下川 宏明
(東北大学大学院教授・循環器内科学)

▼定義

 狭心症は冠動脈病変により,心筋の一過性の虚血によって生じる胸部不快感を主症状とし,心電図変化,心筋代謝異常,心機能障害をきたす臨床症候群である.労作性狭心症とは,動脈硬化による冠動脈の器質的狭窄が原因で,労作時に心筋虚血が生じ胸痛発作を起こす狭心症である.

▼病態

 労作性狭心症は冠動脈硬化を原因とする.冠動脈硬化巣(プラーク)は脂質の蓄積部,線維性被膜,炎症細胞,増殖した新生内膜からなる(図3-9).冠動脈硬化を引き起こす背景として冠危険因子(冠リスクファクター)が重要である.高血圧,脂質異常症,糖尿病,喫煙が4大危険因子とされる.これらは介入可能な危険因子であり,生活習慣の改善や,適切な薬剤服用を行うことでコントロールすることができる.一方,介入不能な危険因子としては,性別(男性),加齢,家族歴などがある.

 心筋虚血は心筋への動脈血流入の減少により,心筋が必要とする酸素消費量に対し,酸素供給量が不足することで心筋酸素需要供給のミスマッチを生じている状態である.さまざまな因子が,心筋への酸素の需要と供給に影響を及ぼすことが知られている.虚血領域では酸素や基質の供給不全を同時に伴い,静脈還流の低下から,静脈内のKや内因性代謝産物の蓄積をきたす.心室の壁運動異常として拡張障害,続いて収縮障害が出現するようになる.その後,心電図上ST変化を認めるようになり,最後に狭心痛が出現してくる.図3-10のように冠循環系には安静時の数倍の血流を流す「冠予備能」が備わっており,労作時などの心筋代謝増大時には冠血流を増加させることが可能である.この調節は微小冠動脈の拡張によって行われるため,太い心表面の導管血管における50%程度の冠狭窄では冠予備能の低下を生じない.しかし,動脈硬化による冠狭窄が強まると,安静時血流は保たれても冠予備能が低下し,心筋酸素需要の増大に十分対応できず,労

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