疾患を疑うポイント
●心尖部で聴取する全収縮期雑音.
学びのポイント
●器質的僧帽弁閉鎖不全と機能性僧帽弁閉鎖不全に分けられる.
●弁膜症のなかでは,大動脈弁狭窄症についで手術対象となる患者数が多い.
▼定義
左室収縮期に僧帽弁が閉鎖せず,左室から左房に血液が逆流する病態.
▼病態
左房から左室に流入した血液の一部が大動脈に駆出されず左房に逆流するため,左室から大動脈への拍出量が減少する.拍出量を維持するためには左室への流入血液量を増大させる必要があり,左房および左室に容量負荷がかかり,左房および左室拡大をきたし,心不全に至る.
僧帽閉鎖不全の原因は,僧帽弁複合体〔本章「僧帽弁狭窄症」の図3-65図参照〕の器質的および機能的異常,左室の機能障害などが挙げられる.
僧帽弁に器質的障害をもたらす原因はリウマチ性,僧帽弁逸脱,感染性心内膜炎など多岐にわたり,先進国では僧帽弁逸脱が多い.
▼分類
僧帽弁閉鎖不全の発症機序に基づくと,器質的僧帽弁閉鎖不全と機能性僧帽弁閉鎖不全に分けられる.この分類で治療方針が異なる.
➊器質的僧帽弁閉鎖不全
僧帽弁複合体を構成する要素のいずれか1つ以上の器質的あるいは機能的異常による僧帽弁閉鎖不全を指す.
1)弁尖の異常
リウマチ性では弁尖の肥厚・変形・短縮,石灰化などを伴う.感染性心内膜炎では疣腫(vegetation)の形成,弁の穿孔や破壊を伴う.逸脱症の場合は粘液腫様変性(myxomatous degeneration)による弁尖の肥厚を認めることがある.
2)弁輪の異常
左房や左室の拡大に伴い弁輪が拡大すると,弁腹の接合不全で逆流が生じる.弁輪の高度石灰化は僧帽弁狭窄のみならず閉鎖不全の原因にもなり,後尖まで石灰化が及び可動性が低下するなどが機序とされる.
3)腱索の異常
感染,外傷,粘液腫様変性,リウマチ熱,特発性など種々の原因で腱索の断裂や延長をきたし,逆流が