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消化管疾患を理解するためのポイント
松本 主之
(岩手医科大学教授・消化器内科消化管分野)

ざっくりわかる消化管疾患

 消化管は口腔から肛門に至る長い管腔臓器であり,部位ごとに多様な疾病が発生します.一方で,各疾患に特徴的な症候は少なく,腹痛,出血,下痢,便秘,体重減少などの症状が重複するのが一般的です.さらに胃癌,大腸癌などの大部分は無症状のままスクリーニング検査で発見されるのが現状です.したがって,消化管疾患の診断においては,症候学のみならず検査所見を十分に理解することが重要といえます.

 消化管疾患を理解するためには,この領域の疾病を腫瘍性疾患,炎症性疾患,機能性疾患に大別することが重要です(図4-1).さらに,腫瘍性疾患と炎症性疾患,および炎症性疾患と機能性疾患は,遺伝子異常や環境要因といった点から重複することを知っておくと,さらに理解度が向上します.本章では,食物の通過と同様に,口腔から肛門の順序で構成されています.ここでは,主に消化管の炎症性疾患を中心に,病態からみた分類について述べてみます.

A 原因や病態の明らかな炎症性疾患

 消化管の炎症性疾患の原因は多種多様ですが,基本的に感染症,薬剤,虚血が大部分を占めています.これらの炎症性疾患に加えて,全身性疾患の一部分症としての消化管病変や遺伝性疾患が存在することを覚えてください.

◎消化管感染症

 消化管は外界と接する臓器であり,薄い粘膜を介して常に食事内容物,細菌・ウイルスなどの微生物,および消化液に曝露されています.最近では,ヒトに病原性を示さない細菌叢が全身性疾患や代謝性疾患の発症に関与することが示され,いわゆるmicrobiota(腸内細菌叢)が注目されています.しかしながら,消化管に炎症性病変を惹起するのは病原性を有する微生物であり,大部分は経口的に消化管内腔に感染し,増殖します.一部の病原体は毒素を産生したり,あるいは粘膜から腸管内に侵入することで,炎症性病変を惹起することになります.

 消化管感染症

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