診療支援
治療

(1)単純ヘルペス脳炎
herpes simplex encephalitis(HSE)
郡山 達男
(脳神経センター大田記念病院・病院長)

▼定義

 単純ヘルペスウイルス(herpes simplex virus:HSV)にはHSV-1型とHSV-2型があり,単純ヘルペス脳炎(HSE)の原因はHSV-1型が多い.新生児期は分娩時の経産道感染によるものが大部分であり,HSV-1型とHSV-2型のいずれもが同様に原因となる〔第11章のも参照〕.

▼病態

 小児ではHSVの初感染時に,成人では神経節に潜伏感染していたウイルスが再活性化して引き起こされることが多い.HSV-2による脳炎は年齢を考慮しても予後不良である.HSV-1による脳炎の病変は,一側優位の海馬を中心とする側頭葉内側,直回,島葉,および眼窩回など辺縁系に好発する.これはウイルスが嗅神経を介して中枢神経に侵入する機序に関連している.

▼疫学

 先進国ではウイルス性脳炎のなかで頻度が高く急速に重症化することが多い.どの年齢にもみられるが小児や高齢者にやや多くみられ,明らかな性差はない.わが国における発生頻度は,年間100万人あたり3.5~3.9人と推計されている.

▼症状

 発熱や頭痛,上気道感染症状で発症し,数日後に意識障害やけいれん,異常言動などの多彩な高次脳機能障害を呈する.経過中に片麻痺,同名半盲などの局所神経症状を伴うことがある.脳幹型では脳神経症状や運動失調を伴うことがある.

▼診断

 髄液検査では,髄液初圧は中等度上昇し,単核球主体の細胞数増加,出血壊死病変を反映して赤血球の増加,蛋白の上昇を認め,糖は正常のことが多い.確定診断にHSV DNA高感度PCRは非常に有用である.通常10~14日後に検出され,1か月後にピークに達し,数年間持続する.髄液HSV IgG抗体価は髄液HSV DNA高感度PCRが陰性の場合に有用である.

 病初期においてMRI検査はCT検査に比較して病変の検出感度が高いので,頭部MRIが強く推奨され,可及的すみやかに行われるべきである.典

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