診療支援
治療

神経疾患を理解するためのポイント
冨本 秀和
(三重大学大学院教授・神経病態内科学)

ざっくりわかる神経疾患

 神経内科学は中枢神経,末梢神経,筋までを含む神経系の病態に関する領域です.このため,対象とする疾患の間口が広く,神経内科特有の病態,たとえば神経変性疾患などの他に,脳血管障害,認知症,てんかんなど,ほかの診療科と軒を接する疾患も多数あります.

 主な対象疾患を分類してみると図10-1のようになります.神経疾患は神経細胞の器質的障害によるものと,原則として器質的障害を伴わない機能性神経疾患に分けることができます.神経細胞の器質的障害を伴うものは,脳・脊髄血管障害脳腫瘍神経感染症脱髄疾患認知症性疾患,神経変性疾患,代謝性・中毒性疾患末梢神経・筋疾患,機能性神経疾患などに分類されます.

 神経疾患の診断がほかの領域と最も異なるのは,神経局在診断が基本となる点です.神経系は運動系(錐体路系,錐体外路系,小脳系),知覚系,自律神経系,高次脳機能系,脳神経系,深部反射系などのさまざまなシステムによって構成され,情報伝達路が縦横に張り巡らされています.神経診察ではまず,これらの情報伝達の状態を評価します.例えば,運動系のなかでも錐体路系の障害では筋力低下(麻痺)というかたちで症状が現れます.右顔面を含む右上肢優位の片麻痺であれば左錐体路障害が疑われ,橋より上位に局在病変が推定できます.さらに,ここに運動失語が存在すれば左前頭葉に障害があることが示唆され,病変は左前頭葉の運動皮質を含むテント上病変にまで病巣の局在範囲を絞り込むことができます(図10-2).小脳系の障害では要素的な筋力は保たれていますが,協調運動が障害されます.錐体外路系の障害でも筋力低下は軽度にとどまり,筋強剛,振戦,無動などのいわゆるパーキンソン症状が認められます.

 以上のようなかたちで神経局在診断をした後に,疾患の発症様式を考慮して病因を推定することになります.例えば,ある

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