診療支援
診断

農薬中毒(グルホシネート・クロルピクリンなど)
††
Pesticide Poisoning
西山 隆
(自衛隊中央病院・救急科部長)

[Ⅰ]グルホシネート

 パラコートに比べて毒性が低いことなどから広く用いられている除草剤の1つで,近年これによる中毒症例が増加している。

診断のポイント

【1】グルホシネート製剤はグルホシネートと界面活性剤を主成分としているため,この両方による中毒症状を考慮しなければならない。

【2】グルホシネート:グルタミン合成酵素の競合的阻害の結果,興奮性神経伝達物質であるグルタミン酸の過剰を引き起こすとともに抑制性神経伝達物質であるGABAを減少させることにより中枢神経毒性を発揮する。

【3】界面活性剤:通常約30%程度の陰イオン界面活性剤が用いられ,これは消化管への粘膜刺激作用をもつとともに,心筋抑制作用や血管透過性を亢進させて全身浮腫,肺水腫をきたし,低容量性ショックの原因となる。

緊急対応の判断基準

 バスタ®液剤で100mL以上の服用が重症の目安とされる。

症候の診かた

【1】急性期の症状:悪心,嘔吐,下痢といった界面活性剤に伴う消化器症状が生じる。

【2】時間経過後に生じる症状:数時間が経過してから意識障害,けいれんや呼吸抑制などグルホシネートによる症状が生じる。したがって最低2~3日間程度は入院させ,厳重な経過観察を行う。

検査所見とその読みかた

 特異的な検査所見はない。

確定診断の決め手

【1】グルホシネート製剤への曝露歴に加え,消化器症状や着色剤による吐物が認められたら強く疑う。

【2】定性・定量分析で血中グルホシネートが検出されれば確定できる。

誤診しやすい疾患との鑑別ポイント

【1】消化器刺激症状を引き起こすもの(主に急性期):石鹼や洗剤,化粧品など界面活性剤を含むものによる中毒。

【2】中枢神経症状(けいれん・意識障害)や呼吸器症状を引き起こすもの(亜急性期以降):ホウ酸,樟脳,ニコチン,有機リン,クロルピクリン,殺鼠剤,その他薬剤による中毒。

合併症・続発症の診断

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