頻度 ときどきみる
治療のポイント
・ST合剤に対する薬剤感受性は一般的に良好であり,ST合剤が治療の軸となる.
・免疫不全状態の有無,脳病変の有無を評価し,治療方針を決めることが重要である.
・時に再発がみられるため,長期間の治療を要する.
◆病態と診断
A病態
・ノカルジア属(Nocardia)の細菌により引き起こされる.
・多くの肺感染症は土壌塵埃中の細菌の吸入により生じると考えられ,皮膚感染症は外傷部位への病原体曝露により起こる.細胞性免疫能低下患者にも健常人にも起こる.
・肺病変は好中球浸潤を伴う膿瘍や壊死を示し,長期化すると肉芽組織形成や線維化を伴う.
・血行性脳播種や,腎臓・骨・筋への播種が起こりうる.
・肺感染症では亜急性の咳嗽,喀痰,血痰,胸痛,発熱を呈し,画像検査では浸潤影や結節,腫瘤(時に空洞を伴う)が単発または多発性にみられるほか,胸水(膿胸)を呈しうる.
B診断
・鑑別診断はほかの病原体による感染症で,肺では肺化膿症をきたす原因微生物,特にアクチノミセス,真菌,抗酸菌を考慮する.
・診断には局所からの検体にてノカルジア属菌を培養同定する.グラム染色で分岐フィラメント状のグラム陽性桿菌を認める.Ziehl-Neelsen染色で抗酸性を示し,グロコット染色で陽性となる.
・培養ではコロニー形成まで3日~4週間を要し,菌種同定には16SrRNA遺伝子解析や,MALDI-TOF MS分析を要する.
◆治療方針
感染臓器,播種性病変の有無,重症度,宿主の免疫状態を考慮する.
肺感染症をみたときに,脳への播種性病変や免疫抑制状態の有無で適切な治療量や期間が異なる.したがって,脳の画像検査やHIV感染などの検討は必須である.
治療薬の中心はST合剤であり,肺感染症ではトリメトプリム換算で5~10mg/kgを用いるが,脳膿瘍や重症感染症,AIDS患者などでは同換算で15mg/kgを使用する.治療