ニュートピックス

・橋梁など鋼構造物の塗装には，かつて防蝕・防錆目的で鉛丹（四酸化三鉛）のような鉛化合物を含む塗料が使用されていた．そのため塗装塗り替え作業の際に，サンダーなどを用いた乾式による剥離で発生した鉛含有粉塵への曝露が原因で急性鉛中毒を発症した事例が報告されている．

・海外から強壮効果を目的として個人輸入された無認可無承認医薬品に，高濃度の鉛が含有されていたため，この医薬品を服用した人が急性鉛中毒を発症した事例が発覚している．

治療のポイント

・鉛中毒の症状はしばしば非特異的であることから，血中鉛濃度の測定に至らないと診断が遅れる可能性があるため，臨床症状から鑑別診断として鉛中毒を念頭におくことが重要である．

・問診などからすみやかに鉛の曝露源を特定し，曝露からの隔離を行うとともに，キレート剤の投与により，体外（尿中）への排泄を促す．

◆病態と診断

A病態

・鉛の特異的な作用として，ヘム合成系における①ポルフィリン合成に係るδ-アミノレブリン酸脱水酵素（ALA-D：δ-aminolevulinic acid dehydratase）阻害作用，②プロトポルフィリンⅨへの鉄導入反応を触媒するフェロケラターゼ阻害作用が知られている．いずれもヘム合成障害をきたすとともに，①による血漿中および尿中のδ-アミノレブリン酸の増加，②によるプロトポルフィリンⅨ（亜鉛にキレートされた亜鉛プロトポルフィリンⅨ）の赤血球中への蓄積，が生じる．

・また，生体内の代謝系や細胞内シグナル伝達系に関与するCaや亜鉛といった二価の陽イオンが鉛によって置換される．これにより神経伝達障害や細胞死が生じると考えられている．

B診断

・鉛中毒の三大症状は「貧血」「腹部症状」「神経障害」である．

・貧血はヘム合成障害による低色素性正球性貧血であり，血中鉛濃度50μg/dL以上で出現する．血中鉛濃度が80μg/dL以上になると，赤