A.疾患・病態の概要
●嫌気性菌(anaerobe)感染症は,酸素が少なく酸化還元電位が低い環境にある局所(いわゆる嫌気環境)で成立する.たとえば,酸化還元電位の低下は,挫滅組織,異物の存在,血流障害などのある部位で認められるが,好気性菌感染によっても低下する.好気性菌感染により局所の嫌気状態が生じ,ここに嫌気性菌が感染して混合性感染の病態になる.これは嫌気性菌感染に特徴的なパターンである二相性感染と呼ばれている.特に閉鎖腔では膿瘍が形成されることも多い.嫌気性菌のうち,クロストリジウム属(Clostridium spp.)やバクテロイデス・フラジリス群(Bacteroides fragillis group)などは,酸素存在下でも生存が可能であり局所の無酸素状態は必要ではない.
●通常,嫌気性菌は芽胞(spore)形成の有無により,有芽胞嫌気性菌と無芽胞嫌気性菌に大別される.有芽胞嫌気性菌の代表は,グラム陽性桿菌のクロストリジウム属で,土壌中,腸管内などに広く存在し,いわゆる外因性感染症の起炎菌となる.ヒトへの病原性が認められるものには,破傷風の原因となるC.tetani,ボツリヌス症の原因となるC.botulinum,ガス壊疽などの皮膚・軟部組織感染症や食中毒の原因となるC.perfringens,菌交代症としての偽膜性腸炎の原因となるC.difficileなどが,よく知られている.一方,無芽胞嫌気性菌は口腔内,腸管内,女性生殖器内などの粘膜や皮膚などの常在細菌叢の主要な細菌であり,いわゆる内因性感染の原因菌となる.嫌気性菌はヒトの粘膜における常在菌叢の99%以上を占め,大腸では好気性菌の1,000倍,口腔内には10倍の菌量があるといわれている.グラム陽性球菌のペプトストレプトコックス属(Peptostreptococcus spp.)は呼吸器・腹腔・軟部組織感染の原因に,
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