急性冠症候群とは
定義
急性冠症候群(ACS)は,冠動脈粥腫(プラーク)の破綻とそれに伴う血栓形成により冠動脈内腔が急速に狭窄,あるいは閉塞し,心筋が虚血,壊死に陥る病態を示す症候群である.
ACSはさらに,心電図でST上昇変化があるST上昇型心筋梗塞,ST上昇がなく心筋障害の定義である心筋逸脱酵素トロポニンの上昇を認める非ST上昇型心筋梗塞,トロポニン上昇を認めない不安定狭心症の3つに分類される(図1)図.
また,急性心筋梗塞は欧州心臓病学会から2018年に第4版の世界定義(world definition)が提唱された.その定義において5つの病型に分類しているが,心筋トロポニン値,新規の虚血性変化などの情報がなく心筋虚血が原因である心臓死を心筋梗塞type 3と定義している.つまりACSには,院外突然死という表現型があることを忘れてはいけない.
患者の訴え方
ACSの主訴としては安静時胸痛が最も多く,約60〜70%と報告されている.しかし約30~40%の患者は胸痛以外の症状を呈する.息切れ,心窩部痛,頸部痛,めまい,失神,嘔気などさまざまである.このため,胸部症状以外のACSを見逃さないように注意を要する.
胸痛の性状は局所的な症状というよりも胸全体を訴えることが多く,圧迫されるような,あるいは押さえつけられるような症状であることも多い.また,胸部症状に冷や汗や腕や頸部などへの放散痛を伴うとACSの可能性が上がる.一方,局所的な痛み,体動に伴う痛み,あるいは圧痛を伴う胸痛であるとACSの可能性は下がる.
糖尿病患者においては症状を呈さずに心筋虚血が無症候性に進行し,心不全が初発症状であることも多い.このため糖尿病患者においては,その罹患年数に応じた適切な心機能評価を行うことが望ましい.
急性冠症候群の頻度
(図2)図
これまでわが国においてACSの発症率の推移を検討した大規模な