診療支援
治療

1 大動脈弁狭窄症
aortic stenosis(AS)
中谷 敏
(大阪大学大学院教授・機能診断科学)

疾患を疑うポイント

●加齢変性性の大動脈弁狭窄症が増えてきている.

●高齢者で収縮期雑音が聴取されれば疑う.

●労作時息切れ,胸痛,失神が主な症状.

学びのポイント

●収縮期雑音が聴取される主な疾患は大動脈弁狭窄症,僧帽弁閉鎖不全症,心室中隔欠損症.高齢者で収縮期雑音が聴取され,さらに遅脈が認められれば大動脈弁狭窄症の可能性が高い.

●徐々に進行するが,有効な内科的治療法はない.時に突然死を起こす.

●大動脈弁置換術が行われると劇的に予後が改善する.最近は経カテーテル的大動脈弁植込み術(TAVI)が広まってきた.

▼定義

 リウマチ性弁疾患,加齢変性,先天性弁異常などのために大動脈弁の開放が障害され弁口面積が減少する疾患.進行性であり加齢変性によるものでは個人差はあるもののおおむね年間0.1cm2ずつ弁口面積が減少していくとされている.昨今の人口の高齢化とあいまって弁膜症のなかでは最も多くみられる.

▼病態

 大動脈弁口面積が減少することにより,左室から大動脈への駆出抵抗が増大し,収縮期に左室と大動脈の間に圧較差が生じる.また一回拍出量も低下する.狭窄が進行するにつれ左室収縮期圧は増大し,左室は圧負荷のために求心性の肥大を呈する.心肥大が進行すると左室コンプライアンスが低下し拡張障害をきたす.また肥大した心筋に十分な酸素が供給できない場合には相対的心筋虚血が生じる.心筋虚血が恒常化すると,心筋の線維化が進行して心機能を低下させ,最終的には後負荷不整合とあいまって心不全となる.

▼疫学

 病因別に頻度をみると変性に伴うものが約8割と最多であり,次いでリウマチ性が1割程度,先天性が約5%と報告されている.先天性のほとんどは二尖弁であるが,時に一尖弁もみる.

‍ 加齢変性に伴うASは65歳以上の2~7%に認められ,年齢ととともに有病率が上昇する.またASの前段階と考えられる大動脈弁硬化は,65歳以上の26%

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