診療支援
治療

(4)狂犬病
rabies
郡山 達男
(脳神経センター大田記念病院・病院長)

▼定義

 わが国では1950年に「狂犬病予防法」が制定され,1957年にネコでの発症を最後に国内発症は認められていない.狂犬病は致死率がほぼ100%のウイルス性脳炎で,ヒトを含めたすべてのほ乳類が感染し,発症しうる〔第11章のも参照〕.

▼病態

 狂犬病ウイルスは感染発症動物の唾液中に排出されており,咬傷を介して次の宿主に感染する.ウイルスは咬傷部位から体内に侵入後,末梢神経より中枢神経に感染する.ウイルスは脳内で増殖し,脳炎が惹起される.ウイルスは神経を介して遠心性に角膜,唾液腺,内臓,筋肉,皮膚などの全身に広がる.

▼疫学

 狂犬病は日本を含むごく一部の国と地域を除き,世界中で流行が認められる.狂犬病による死亡者数は年間約6万人以上と推定され,95%以上がアジア(約56%)とアフリカ(約39%)での発症であり,発症の84%が農村部である.

▼症状

 潜伏期間は2週間~3か月である.前駆期は2~10日間継続し,咬傷部に灼熱感,疼痛やかゆみがあり,続いて全身倦怠感,食欲不振,頭痛,精神不安などが認められる.急性神経症状期は2~10日ほど継続し,不安感,錯乱,幻覚,攻撃性などがみられる.患者の約半数に咽頭喉頭筋群のけいれんに起因する嚥下困難,さらには飲水を拒むようになる恐水(hydrophobia)を呈する.最終的には昏睡期に陥り,低血圧,呼吸停止,心停止により死に至る.

▼診断

 狂犬病は現在のわが国では発生がほとんどみられない疾患であるため,脳炎の鑑別診断として念頭におき,海外渡航歴および常在地で動物に咬まれた病歴や恐水症状などの典型的な症状を手がかりに診断する.臨床症状などにより狂犬病を疑った場合,頭頸部皮膚(毛包部)の生検材料や角膜スメアなどから,抗N蛋白質抗体を用いた直接蛍光抗体によるウイルス抗原の検出が行われる.RT-PCR法により唾液や脳脊髄液などからウイルスゲノムRNAを検出

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