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治療

3 モラクセラ・カタラーリス感染症
infection caused by Moraxella catarrhalis
松本 哲哉
(国際医療福祉大学主任教授・感染症学)

▼定義

‍ モラクセラ・カタラーリス(Moraxella catarrhalis)は,モラクセラ属のグラム陰性球菌であって,以前はブランハメラ・カタラーリス(Branhamella catarrhalis)とよばれていた.本菌は肺炎球菌やインフルエンザ菌とともに呼吸器感染症の代表的な菌であり,肺炎,気管支炎,鼻副鼻腔炎,中耳炎などの感染症を引き起こす.

▼病態

‍ M. catarrhalisはヒトの鼻咽腔に定着しやすいが年齢層によって定着率は異なり,健康成人では5%以下であるが,乳幼児では50%程度まで定着しているといわれている.鼻咽腔に定着している菌がその隣接部位に侵入して,鼻副鼻腔炎中耳炎を引き起こすと考えられている.

 ウイルスによる上気道感染が本菌による感染症の発症の誘因となることが多い.急性中耳炎の症状は肺炎球菌による感染に比べれば軽度であるといわれている.慢性閉塞性肺疾患(chronic obstructive pulmonary disease:COPD)患者における急性増悪はインフルエンザ菌とともに本菌が原因である頻度が高いが,通常の状態よりも喀痰量の増加や発熱,呼吸困難を伴いやすい.なお,本菌による菌血症はまれである.

▼疫学

 本菌が臨床検体から分離される割合は,国や年齢,季節などによっても異なっている.一般的に鼻副鼻腔炎や急性中耳炎の症例の約20%から本菌が分離されるといわれているが,成人例ではその割合は低くなる.

▼診断

 本菌は臨床検体のグラム染色で,グラム陰性の双球菌として観察され,好中球による貪食像が認められやすいという特徴を有している.Gram染色によって原因菌の推定は可能であるが,診断には感染部位から得られた検体から本菌を分離,培養する必要がある.ただし,本菌が喀痰などの気道検体から分離された場合でも,気道に常在している菌の混入との鑑別が難しいことがあ

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