診療支援
治療

1 パラコート
paraquat
新谷 裕
(北野病院・救急部副部長)

▼概説

 パラコートは除草剤として用いる農薬である.本来は無味無臭で,常温では個体である.溶解液を飲料水と誤認する誤飲事故や,服毒自殺が多く発生した.毒性が非常に強いため高濃度製剤の生産は中止され,1980年代に低濃度パラコートとジクワットの合剤の製品に変更された.また,青緑に着色し,催吐剤を混入,さらに強い臭いをつけるなどの誤飲防止処置が行われた.しかし,農家には古い高濃度製剤が残存しており,それによる中毒症例も発生している.大量摂取では1~2日で低用量性ショックとなり死亡する.急性期死亡を免れても肺線維症が進行し呼吸不全により死亡する.

 診断は発症状況から確認する.経口摂取すると添加された催吐剤により激しく嘔吐し,腹痛や下痢を伴う.口腔粘膜にびらんや舌炎を伴う.トキシドロームとして口周囲の青色の着色や吐物が青ければ疑う.尿定性反応として,尿に水酸化ナトリウムを加えてアルカリ化しハイドロサルファイトナトリウムを加え青紫色に発色すると陽性と判定する.血液検査では肝機能異常,腎機能異常を呈する.

 医療スタッフは二次被害の防止のため,室内換気や吐物などへの接触の防御に努める.

▼毒性のメカニズム

 ヒトの経口推定致死量は35mg/kgである.24%高濃度製剤のパラコートで10~20mL,5%低濃度パラコートとジクワット合剤で20~40mLである.

 経口では小腸からすみやかに吸収され4時間以内に血中濃度はピークとなる.皮膚粘膜からも吸収される.吸収されたパラコートは大部分が未変化体で腎から排泄される.吸収されたパラコートは主に小腸,筋肉や肺に分布する.パラコートは体内では代謝されない.半減期は二相性を示し急速相で5時間,緩徐相で84時間である.

 細胞内でレドックスサイクルとよばれる次のような酸化還元反応を繰り返す.パラコートは還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸(reduc

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